2014年11月28日金曜日

平成二十六年冬興帖、第一 (山本敏倖・中山奈々・杉山久子・福永法弘・山田露結・内村恭子)




山本敏倖
ふくろうの含み笑いが伏線
おじぎして枯野の奥に穴あける
でざいんはキューブリックの水の音
凩一号空井戸の足跡
鮟鱇のつじつま合わすト短調



中山奈々(「百鳥」「里」)
ががいもの種はせをつて誰かしら
彗星に探査機ががいもの実飛ぶ
夜は雲間よりががいもの枯れにけり



杉山久子
朱鷺色のショール愛してより不屈
出戻りの蝦蛄葉仙人掌日を浴びて
酒つよき子らよ海鼠腸もお食べ



福永法弘(「天為」同人、「石童庵」庵主、むかし「豈」同人、俳人協会理事)
笑話では済まざる昭和枯虎杖
寒晴や五尺に足りぬ昭和の子
「不器用ですから」と逝きけり外は雪



山田露結 (「銀化」同人)
おきざりを見てゐるうちに冬となる
着古しの体にジャケツ馴染みけり
大きさの違ふ三つの枯野かな



内村恭子(「天為」同人)
寺町に何ごともなき冬はじめ
足音のあれば口開け冬の鯉
寒の雨花屋に街の色集め
冬帽子いはくありげな書を配り
図書館に朝の光と室の花





 平成二十六年秋興帖,第七 (小澤麻結)


小澤麻結(「知音」同人)
カンナ燃ゆ校舎入口開け放ち
海ゆたにたゆたに翳る秋日かな
水吸ひて秋蝶の瑠璃深まりぬ

2014年11月21日金曜日

 平成二十六年秋興帖,第六 (もてきまり・西村麒麟・飯田冬真・月野ぽぽな・筑紫磐井・岡田由季・音羽紅子・後藤貴子・竹岡一郎・仲寒蟬・福永法弘・山田露結・大井恒行・北川美美・仮屋賢一)



もてき まり (「らん」同人)
男郎花とりとめもなく死の匂ひ
慾ふかくどぶろく青の味したり 
曼珠沙華あれは原発4号機 


西村麒麟
泳ぎゐる一塊のしめぢかな
声がしてはつとしめぢを見たりけり
しめぢ又たぷんと浮かび来たりけり
沈めたるしめぢのことを思ひ出す
しめぢのみ偏愛したる病あり



飯田冬真
蟷螂や尖るものから喰はれゆく
いびつなる影を引き摺り後の月
糸瓜忌やエプロンの紐生乾き


月野ぽぽな(「海程」同人)
竜淵に潜むや空に傷のこし
かまきりは草のおもさの鎌をふる     
咲き満ちて莟のごとし吾亦紅    
たましいのかすかな羽音水の秋
よく熟れた星から順に流れるよ


筑紫磐井
暑が処むといへる酒場の止まり木に
田はみんな刈らねばならずみんなで刈る
深大寺人多ければ秋さみし



岡田由季(炎環・豆の木)
洋梨の部屋に夜風を入れてをり
竈馬危ふく弟子になるところ
弦楽の分厚き音を出す良夜


音羽紅子
この町の中華食堂銀杏散る
木枯らしや食堂の戸の自動なる
水注ぐ小さきコップや日短か


後藤 貴子(『鬣TATEGAMI』)
紅葉鮒汝がはらわたは土塊ぞ
張愛玲振りさけ見れば芙蓉落つ
寄らば斬るシオカラトンボの鉄拳ぞ

竹岡一郎(「鷹」同人)
世に満つる恐怖を忘れ障子貼る
戦争を越え来し家の障子貼る
障子貼る優しき家となるやうに


仲寒蟬
陰毛のごとくちぢれて曼珠沙華
胆石は胆嚢の底秋の水
辞書割つてその谷を月渡らしむ
花野へとつらなる書庫の起伏かな
秋の夜の睫毛がワイングラス越し
秋麗の木の影木より濃かりけり
虫の闇たどればホテルカリフォルニア



福永法弘(「天為」同人、「石童庵」庵主、むかし「豈」同人、俳人協会理事)
盆荒れに切れ切れワルシャワ労働歌
薄もみぢ俳句この頃女歌
軍歌より露けきものに反戦歌



山田露結(「銀化」同人)
二つ三つ四つ目までは柘榴でした
露けしや資生堂アイスクリームパーラーのフルーツポンチ
冬近しフィリピン・パブから次のフィリピン・パブが見ゆ



大井恒行
舌読す句碑のみならず秋の昼
天日をまさびし鳥の鳴きわたる
桐一葉落ちればみょうに明るい木



北川美美
どの菊も食べられる菊食べてみる
月蝕を探して歩く近所かな
夜半の秋時計が半を打つたびに




仮屋賢一(「ふらここ」)
少女らの敵無き天下七五三
選びゐる次の名盤風邪心地
贖罪のまづは蜜柑を剥いてから
冬の虹ならば掴んでみせたまへ



2014年11月14日金曜日

平成二十六年秋興帖,第五 (寺田人・川嶋ぱんだ・木田智美・瀬越悠矢・小林苑を・林雅樹・山本敏倖・内田麻衣子・関根誠子・佐藤りえ・望月士郎)



寺田人(「H2O」「ふらここ」)
午前帰りの文字起こし野菊咲く
鏡には今日の自分や秋の朝
団栗の十個少年豊かにす
原色の豊かな村に小鳥来る
星月夜売る悪徳業者の噂
星を織り銀河成しつつ船は行く
不幸なら笑ってみせよ草の花



川嶋ぱんだ(ふらここ、船団の会)
夜長し北白川の夜は特に
馬鈴薯や顔に馴染まぬ化粧水
虫の音や昭和ポルノの映画券
枯蔓やにょっぽり青い空を引く




木田智美(関西俳句会「ふらここ」)
団長は赤の祭の字の法被
銀杏や神社の奥の保育園
ひとまわりふたまわり小さくなる狛犬
半分は妖怪である秋祭
夜店抜けこんなに短かったっけ
玉蜀黍ふたり目の子はベビーカー
りんご飴で太鼓をすこしだけ鳴らす



瀬越悠矢
過去帖の長き余白や虫の声
聖書繰るとんぼうの翅繰るごとく
暮の秋ホテルの壁に水の音



小林苑を (「里」「月天」「塵風」所属)
アクリルの球形の椅子水の秋
巨なる遺産あかとんぼが群れて
指組めば黄落の黄の昏くなり



林雅樹
残暑のドーム気球に乗りてまゆゆかはいい
柵はみ出て揺るゝ一葉や紅葉せる
宵闇や歌おそろしき女性デモ



山本敏倖
魂魄を入れ替え真葛原に立つ
わたくしに時間の戻る秋の暮
かの紅葉はなれて酒呑童子かな
創世の神の顔するぶどう棚
どんぐりのドヴォルザークは道程




内田 麻衣子(野の会同人)
絵の端のガラス鈍色秋の宿
釣瓶落しレニ・リーフェンシュタールの黄金(きん)睫毛
金紅葉眇めて見入るうさぎの眼




関根誠子
四菱の塀の孔から残り菊
似て違ふ厄介のさて茨の実
秋思やや鰓などあらばをかしからむ



佐藤りえ
連れられて犬は十日の菊嗅げり
追いやれば硝子の外の秋の蠅
鉄球に崩るるビルや鰯雲
儀の文字の小さし蜻蛉飛びまはる
秋郊や等高線のみぎひだり




望月士郎 (「海程」所属)
長き夜の壁紙にバラ反復す
捨案山子ゴッホの父の名もゴッホ
血を流さぬやうに林檎を縦切りに



2014年11月7日金曜日

平成二十六年秋興帖,第四  (下坂速穂 ・岬光世 ・依光正樹 ・依光陽子・早瀬恵子・真矢ひろみ・羽村美和子・網野月を)



下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
新涼や抜けかはりたる羽も白く
足跡に遠く鳥ゐる秋の潮
風吹いてあれは金木犀の家



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
同道は釣舟草のあたりまで
秋湿りライナーノーツ読み返し
街の灯のとどかぬ処ちちろ虫



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
いつどこで船が光るか爽やかに
海あふぐゑのころ草の淋しさに
コスモスや立つて遊んでまた座り



依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
手びさしで歩を止めながら白芙蓉
颱風を来てなまぬるき靴の中
捕りてより虫籠の虫気に入らぬ


早瀬恵子 
白秋の粋な八掛(はっかけ)おつな寿司
錦繍の月の点心おこしやす
竜胆や思わぬ人に思われて



真矢ひろみ (「豈」「俳句スクエア」「SHIKIチーム」等々)
夕月夜アイフォンシックス解体す
一天の揺るる蜉蝣翅立てば
行きずりの秋の蛍を埠頭まで



羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」同人)
大花野返し忘れた鍵がある
人体に火薬の匂い百舌高音
秋夕焼どの本にも挟んであった




網野月を
左へ走る非常口灯後の月
老後の後蜜柑に人の手の温み
秋高し色神の眼に青き鳥
台風はB型であり蟹股であり