2015年12月25日金曜日

平成二十七年冬興帖 第五 (堀本 吟・月野ぽぽな・羽村 美和子・石童庵・もてきまり)



堀本 吟
開戦日微塵となって散らばって 
闇鍋や本を焚くより愉しいこと
階段の糸引き抜いて閒石忌



月野ぽぽな(海程)
冬に入る全ての塔を尖らせて
母国語も異国語も白い息
悴んできてすこしだけ木の気持ち    



羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」同人)
みのむしの蓑のとりどりパリコレ
冬すみれ番号できみを何と呼ぶ
じゃがいもの芽のほのあかく宵のテロ
さびしさの夢の出口よ寒椿
鬼おこぜ前世は華麗な一族で



石童庵
我が詩嚢色も形も赤海鼠
虎落笛名僧は死を畏れずや
煮凝りや我が曾遊の蛸薬師



もてきまり
軍靴の凩やまぬ地図がある
オリオンの傾ぐ西方瓦礫都市
唐変木といふ木あり榾にする





2015年12月18日金曜日

平成二十七年冬興帖 第四 (坂間恒子・望月士郎・青木百舌鳥)


坂間恒子  (「豈」「遊牧」)
水中の木が両手挙げ十一月
薔薇園に冬蝶の骨沈みゆく
枕木は深夜に燃える枇杷の花



望月士郎 「海程」所属
冬三日月紙片が指をすっと切る
かなしみ時に鶴を束ねて売りに出す
ふかふかの蒲団の中のカフカの眼
盲点にいつも綿虫舞う故郷
故郷よりころころ赤い毛糸玉



青木百舌鳥(「夏潮」)
落葉降る音や枝に打ち枝に打ち
山里の枯れて清らか碑も
野沢菜の一ト桶ほどの刈り残し
供花ありて文字は見えず薮柑子
川底を冬日の綾の遡りをり




平成二十七年秋興帖 追補 (福田葉子)



福田葉子
指ならす仕草覚えしばい廻し
錆びて久しき母の鋏や秋灯し
無愛想に冬瓜ころがる昔話

2015年12月11日金曜日

平成二十七年冬興帖 第三 (前北かおる・ふけとしこ・川嶋ぱんだ・とこうわらび・林雅樹・早瀬恵子)



前北かおる(夏潮)
仮り初めの勤めに馴染み小六月
時なしの蚊にたかられて枇杷の花
色付きてなほ稚く実千両


ふけとしこ
滝壺を覗き込むとき背に冬日
冬紅葉キャラメルシュガー壺に満ち
時雨忌の湖や鳶を見失ふ


川嶋ぱんだ((    )俳句会代表、船団の会)
父ちゃんが炬燵と言わんばかりかな
ストーブの名前にポチとつけてみる
布団から顔出せば国境あたりかな
空き缶を積んで冬日の主夫を抱く
風花が散るまで君を待っている
風花が散るまで黄身のぷるぷるす
風花が散る散る海が満ちていく


とこうわらび((    )俳句会)
氷雨降る肩に不安の刺さる音
クリスマス子供をやめた証の日
枯れ葉落つまたも懲りずに酔っ払い
マフラーに久しぶりねとご挨拶
ストーブやごくりと灯油のまれゆく
朝焼けを背負って行くや寒の入


林雅樹 (澤)
枯野より父帰らずよ次は息子か
枯野に駆け込むMajiで尿洩る五秒前
銀杏散る痴漢注意の看板に


早瀬恵子
冬銀河メトロノームの甘き死よ
妖怪の国籍いずこ冬の園
霜月のボジョレ・ヌーボー君が好き



2015年12月4日金曜日

平成二十七年冬興帖 第二 (内村恭子・渡邉美保・小野裕三・佐藤りえ・木村オサム・栗山心)



内村恭子 (「天為」同人)
稜線の遠く鋭くなりて冬
木枯しや四人揃へば雀荘へ
六地蔵頭巾を深々と時雨
信楽焼に水を吸はせて山の冷え
鳴き真似の枯野に響く九官鳥



渡邉美保
立冬や砥石平らに均さねば
砂浜の砂やはらかく冬に入る
冬空へゴム鉄砲を撃ちにけり



小野裕三 (海程・豆の木)
小雪の大声で呼ぶ隠れんぼ
ふしぎな仲間曇天の冬の一日
十二月の雨を結んでさようなら



佐藤りえ
枯野道ころびすばやく起き上がる
しはぶいてあたまの穴のひろがりぬ
狐火を焚いて迎へてくれさうな
寒林にATMでも作らうか
方形の麺麭積まれゐる十二月



木村オサム(「玄鳥」)
焚火して戦に敗けた顔となる
生き残りほわんと座る散紅葉
形だけのお辞儀で済ませ山眠る
包帯を巻いた海鼠の集う庭
週刊誌丸めて叩く狸かな



栗山心(「都市」同人)
二の酉やヒモの極意を盗み聴く
ニの酉の河童娘の秋波かな
ピンヒールブーツサンダル酉の市





2015年11月27日金曜日

平成二十七年冬興帖 第一(曾根 毅・杉山久子・陽 美保子・小林かんな・山本 敏倖・網野月を・夏木久)



曾根 毅(「LOTUS」同人)
霜柱胎蔵界を突き出せり
地に還るまでの刹那を寒牡丹
籠城の静けさにあり冬菫



杉山久子
初雪と聞き旅の荷に足す葉書
ジブリアニメヒロインのごと冬木立つ
着ぶくれてジェネリック薬品に諾


陽 美保子(「泉」同人)
鯛焼好き大判焼きはもつと好き
モンゴルはオオカミの国大枯野
声なくて綿虫ただようことしたり



小林かんな
おにぎりは小さき富士か小六月
常設展より始まりぬ落葉径
黄落や腕の行方の思わるる
横笛を吹く少年や冬の空
画架あまた畳まれて七竈の実




山本 敏倖(豈・山河)
 十一月の手品師はさばんな
人形にたましい入れる火事と鼓と
沸点までの経緯かくし冬紅葉
続編は冬の虹立つ裏サイト
人間になる音見つけ帰り花




網野月を
秋は赤ドローン瞰図に二割ほど
時雨闇原稿用紙が足りない
秋高し円周率(パイ)を諳んじている男
しぐれ忌は雨の好日棚田道
歯石取る定期検診芭蕉の忌
ポスターの顔へ落書き柿熟るる
ズボン役の二人誘ひもみじ狩



夏木久
抽斗の闇を切り取り鶴を折る       
湯豆腐を雪降るやうに後悔す
血の滲む余白を突く烏かな
枯葉舞ふ欅並木といふ隙間
シャッフルの後に引きたるQの影
穴を開け聖夜にそつと入るかも
永遠の夜の踏切に人の影



2015年11月20日金曜日

平成二十七年秋興帖 第九 (秋月祐一・青木百舌鳥・飯田冬眞 ・宮﨑莉々香・北川美美・大井恒行・筑紫磐井)


秋月祐一(船団の会)
楽しげな手話のおしやべり小鳥くる
土瓶蒸し父と慕つてゐる人と
ペン先はぬるま湯のなか秋惜しむ



青木百舌鳥(夏潮)
案山子ともスピード違反抑止とも
毛見なぞに非ずよ見惚れゐたるだけ
栗の毬足の親指このあたり
のぼり来て籠の茸のしづみをる
秋空が近しレタスに甜菜に




飯田冬眞 
饒舌なふりは処世と法師蟬
スイッチをつけては消しぬ夜長かな
ちちろ虫母は日記を盗み読む
海遙か無臭の菊を供へけり
虫の闇木馬に体ゆだねをり
十三夜記憶の紐を解くやうに
残菊や紫煙まみれの未定稿



宮﨑莉々香
食べられてしまふかまきりとかまきり
朝顔に吸ひ取らるるが時間なり
パソコンのうへの柚子から黄色くなる




北川美美
秋灯の沈みつつ揺れ野外劇
鳥と鳥ぶつからず飛ぶ昼の月
印度とか新世界とか林檎の名



大井恒行
あさがおに山川のかげ陽のなげき
晩夏晩秋はんざきを飼い首長し
秋ついり魔女をさびしむ窓の雨





筑紫磐井
秋日傘が行くそつけなきメロドラマ
兜太の字溢れて八月らしき街
銀座にも芋名月の老舗かな





2015年11月13日金曜日

平成二十七年秋興帖 第八 (浅沼璞・中村猛虎・西村麒麟・坂間恒子・五島高資・真矢ひろみ)



浅沼璞
欄干に亀吊さるる放生会
鶴翁が旧居さまよふ狭霧かな
霧雨の霧を嗅ぎ分け来よ鬼よ
白露や篠竹たわむ付け睫毛
月天心猫脚の椅子動きだす
月光の階段を這ふ手足かな
障子貼る手長足長ろくろ首



中村猛虎(なかむらたけとら。1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。)
黒葡萄その一粒の地雷原
横浜港秋冷を密輸する
鏡から出てこぬ妻よ啄木鳥よ
秋霖の隙間を埋める母の息
女から紐の出ていて曼珠沙華
鯵叩くテレビは吉本新喜劇
あっそうか引きこもっている蓑虫か


西村麒麟
茸から茸へ跳んで逃げしもの
集まつて大小の毒茸かな
しろしろと頭の小さき茸かな



坂間恒子(「豈」「遊牧」)
封を切るブラックペッパー蟲の夜
銀河系とぎれずに鳴く昼の虫
燧石大音声の実むらさき




五島高資
色葉散る下天の内やホルトノキ
うつせみの玻璃にゆがむや秋燈
寝過ごしてひとり降り立つ銀河かな



真矢ひろみ
骨盤を落とし肋骨を上げて秋
月天心アポトーシスの始まりぬ
意味ならばゑのころぐさに聞きなさい




2015年11月6日金曜日

平成二十七年秋興帖 第八 (下楠絵里・田中葉月・豊里友行・水岩瞳・羽村 美和子・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下楠絵里(「ふらここ」)
台本の端に折り目や鰯雲
やはらかく変はる表情草の花
老蝶を追ひぬ真白の衣装にて
秋澄むや楽屋を発つときの呼吸
独唱の指先満月に触るる
照明のなかのしづけさ文化の日
舞台いま木材となる暮の秋



田中葉月
海苔巻きにまいてみやうか花野風
みどり児のおくるみ真白あけびの実
白桃や刃先にエロスほとばしる




豊里友行
花火咲くじょうずに島を切り売りて
空高く積み木の沖縄大和口(ウチナーヤマトグチ)
西陽射す白蛇と化すアスファルト
売りません幾度曲がれど石敢當(イシガントウ)
ジャスコになっちゃった少年の水平線
海を売り舟より花札の落ち葉
散る花火苔のむすまで埋立地




水岩瞳
ゼロ戦は飛ぶ八月の海の底
とこしなへ鬼が隠れし薄原
愚痴その他月光仮面のおじさんに
まだ無月女将掲げる紙の月
ややこしき吾に辟易とはの秋




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
秋うらら休日倶楽部に十返舎一九
木犀の香の渦巻いて銀河系
真夜中の胎動一つ烏瓜
貧しさのこんなに背高泡立草




下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
風の音音楽の音秋の音
おもなみと云ひ間違へて秋風に
けふの風に遊びのありし冬仕度




岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
姿よき人来る頃やくわりんの実
火恋し椅子の丸みを撫でてゐる
うちとけて栗飯のある談義かな




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
色鳥や歩いて二人だけの径
手にのせてうれしき木の実降りにけり
初紅葉きのふの傘の汚れしまま




依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
ひろびろとかなしき虫の原に佇つ
其と見れば秋の芝なり匂ひ立つ
朱を点じては暗がりへ尉鶲




2015年10月30日金曜日

平成二十七年秋興帖 第七 (渡邉美保・ふけとしこ・佐藤りえ・望月士郎・衛藤夏子・小野裕三・堀本 吟・小林苑を・林雅樹)



渡邉美保
石に穴穿つ遊びをいわし雲
島暮れて酸橘百個の搾り汁
にれの木が森の入口色鳥来



ふけとしこ
子別れの鴉や窓に雨汚れ
走り根の抱へる水も澄みにけり
この駅へ通ひし日あり稲光



佐藤りえ
俯いて歩くよ秋の水を避け
武蔵野にむかし掘つ立て小屋の秋
回り道しない大人になつて秋
ガントリークレーンおとなしい宵寒
一団は踊りながらに過ぎて行く



望月士郎 (「海程」所属)
象に象重ねる銀漢までいくつ
めいめいの雨月の羊撫でて寝る
月の駅みんな待ってる紐電車
すすきはら母が背中に文字を書く
虫売りの妻です怖いとき笑う



衛藤夏子
露あれば星のしずくと思う朝
昼の月ふたりになって知るひとり
星月夜森に忘れたハイヒール



小野裕三(海程・豆の木)
秋郊のストロー一本惨劇のよう
雨音葉音槌音足音鉄道草
灯籠に集まりやすき唇あり



堀本 吟
擬態から真のいのちの火(ほ)が見える
音たてて銀河真中を流される
写生論どの満月もまんまるな
白かぼちゃただに置かれてある宇宙
電線の囲みに月という天体



小林苑を
天高し賑やかに行く春画展
椎の実を知らない子から貰ひけり
人類の絶へたるあとの欅の木




林雅樹(澤)
大学に芝刈る匂ひ鰯雲
虫の声高まる駅舎攻むるごと
デモに行く爺楽しさう銀杏踏み
秋出水デモ隊叫びつゝ流れ
川沿ひの小さな家や彼岸花





2015年10月23日金曜日

平成二十七年秋興帖 第六 (もてきまり・木村オサム・仲田陽子・月野ぽぽな・関根誠子・ななかまど・真崎一恵・とこうわらび・川嶋ぱんだ)



もてきまり
前の世の情事の余韻萩こぼれ
鬼なれば骨盤で漕ぐすすき原
逝くまでは次頁つづく野分かな



木村オサム(「玄鳥」)
目の前の烏瓜より説得す
飲み忘れた薬飛び出す鳳仙花
ニュートンの林檎売り物にはならず
聖骸布開いて芋の類出す
鼻孔より通じる永遠の芒原




仲田陽子
紙ヤスリかけても良夜凹凸す
小鳥来る致死の絵具を使いきり
鵙鳴くや足ばかり描くクロッキー
流星の捨てられている裏出口
ひと昔前を行くなり猫じゃらし





月野ぽぽな(「海程」)
水よりも水音澄みわたる夕べ
土にある戦の記憶曼珠沙華
うつしき引っ掻き傷よ流星は




関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
百日がもう了るのね百日紅
椿の実すこし歯を見せ行き違ふ
体内のしづかな秋を胃カメラは




ななかまど((   )俳句会)
満月を香ばしく焼く日曜日
武庫川に月見団子の降る心地
鉄棒をぐるりと回って星月夜
玻璃戸上り桔梗の花の開く音
栗飯の粒柔らかく片想い
平皿に檸檬潰れて死んでいる



真崎一恵 ((   )俳句会)
秋風や底意地悪いクロワッサン
秋の川靴に魚の棲んでをり
左手に小説右手には秋気
蚯蚓鳴く後ろで叫ぶ洗濯機
いつだって梅酒ばかりね蚯蚓鳴く
名月や肌荒れ気味の顔周り
秋茄子の顔を思い出して電話



とこうわらび ((   )俳句会)
送り火に送られゆくや夜の道
葡萄の実皮むくひまも待ちきれず
食卓に堂々と立つむかご飯
雨のたび一歩遠のく残暑かな
コスモスの波に揺れたるわが心



川嶋ぱんだ ((   )俳句会、船団の会)
初紅葉椅子よりながい君の脚
手をつなぐときは静かな秋の夜
路地裏を通って帰る月見かな
言うことを聞けよ十六夜まで待てよ
紅葉且つ散ってあなたを抱きしめる






2015年10月16日金曜日

平成二十七年秋興帖 第五 (内村恭子・小林かんな・石童庵・陽 美保子・堀田季何・小沢麻結)



内村恭子 (「天為」同人)
秋ともし壁をはみ出す天使像
法王が眼鏡を買ひに秋うらら
秋光の差し込む中庭の木椅子
要塞の獅子老いにけり霧の夜
秋空のいつもどこかに羽音して



小林かんな
朝の陽を背中に立ち上がる鹿は
うっとりと日に当たりつつけむり茸
秋光のところどころで手をつなぐ
ふもとには露草ひらく火口かな
とちゅうまで秋の燕と同じ道



石童庵
閑けさや草葉隠れに鹿威
分け入つても分け入つても茸無く
遅れじと水戸は皆死すすいつちよん



陽 美保子(「泉」同人)
吾亦紅みんな帰つてしまひけり
秋風や立てて血を抜く青魚
一幹を蔓固巻きに猟期来



堀田季何(澤)
豊年や光の兵器設計図
アーリントン国立墓地を穴惑
星月夜水漬く屍のかさなれり



小沢麻結
秋燕湖面を打ちて光蒔く
身に沁むや記録の中に予知夢あり
実紫彼女は俳句始むるか



2015年10月9日金曜日

平成二十七年秋興帖 第四(淺津 大雅・仮屋賢一・大瀬良陽生・神谷波・仲寒蟬)



淺津 大雅(「ふらここ」)
 城端むぎや祭三句
犬に夢中なり踊笠背負ひたる子
旅行者の撮る旅行者の笠踊
節の間に地へとんと突く踊笠

 東尋坊三句
露草や風に靡かぬ句碑三つ
青北風や崖上に子をかゝへ立つ
東映の三角出てきさうな海




仮屋賢一(関西俳句会「ふらここ」代表)
村芝居犬啼くたびに驚けり
きちきちのいちいち刻をすすめゆく
咲くときはまだ風知らぬ秋桜
弟子とらぬ貌の案山子の傾ぎをり
秋没日褒め合ふときの敬語かな
衣被名を訊くためにまづ名乗る
こほろぎや遅れて点きし厠の灯



大瀬良陽生
七夕や来世は何に生まれよう
蚯蚓鳴く星の見えざることに慣れ
天高し番狂わせを成し遂げて
爽やかや居合の親子向かい合ふ
日の丸く出て半月を生みにけり
卵焼き買ふ贅沢や秋の暮



神谷波
冬瓜を食べやすやすと眠りけり
稲妻や瞬きゆつくりアンドロイド
肉付きのよき舞茸の下半身
かろやかすぎ敬老の日の竹とんぼ



仲寒蟬
八月や南を上にアジア地図
星辰のずれる音して渡り鳥
跫音を聞かれてはだめ曼珠沙華
露けしや猫が水飲む舌の音
ストローをのぼる液体今日の月




2015年10月2日金曜日

平成二十七年秋興帖 第三 (五島高資・山本敏倖・網野月を・岡田由季・音羽紅子)




五島高資
昼の野に星の降るなり岩煙草
九字切りて手刀おさめる律の風
寝過ごしてひとり降り立つ銀河かな




山本敏倖(豈・山河)
ボクとぼく野菊を挟み戦争す
どの顔で扉を開ける鳥兜
サインコサイン三日月から落っこちる
いずこまで尻尾を伸ばす秋風鈴
あっ花火だ引っ込んだ手が触れてくる




網野月を
濁音と半濁音の滝の秋
青恋し停まって見上ぐ空の秋
秋は秋褪せて乾いてたじろがず
秋高しトロンプルイユに同化する
白き風半月輪欠く五輪塔




岡田由季(炎環・豆の木)
物言はぬ臓器と色を変へぬ松 
朗読の会桔梗が水を吸ふ 
鹿二頭生放送を横切りぬ




音羽紅子
コスモスのまだ小さきに風の来て
振り返る人のいなくて芒原
十五夜や誰も住まなくなつた家




2015年9月25日金曜日

平成二十七年秋興帖 第二 (早瀬恵子・曾根 毅・前北かおる・夏木 久)




早瀬恵子
ひと粒の真珠うかびし月書院
るるなりや献詠ほのと萩の宮
秋夜長ぬしさんからむ玉露酒




曾根 毅(「LOTUS」同人)
離れ浮く島や肛門まで野菊
法隆寺いくたび月を遣り過ごし
鳥の棲む暗さに残り鈴の音




前北かおる(夏潮)
仏壇の代はりの写真御中元
大人しき遺愛の猫や霊祭
朝顔の首筋白き昼下がり




夏木 久
物語の速度不足や吾亦紅
時計屋の時空の時化のその時代
彼岸への合図木椅子をひとつ燃す
地図にジャム仏蘭西麵麭に秋の海
地図に零せしインクの染み産土
屈強の雨後の出立伊予桔梗
亡骸も凶器も捨てし天の川





2015年9月18日金曜日

平成二十七年秋興帖 第一 (杉山久子・池田澄子・青山茂根)






杉山久子
新涼やかがやきて立つプルトップ
前世より秋日の射せる食器棚
マンホール図面ひろげる星月夜




池田澄子
星仰ぐ頭は重し敗戦日
遠来の洋梨を見て嗅いで置く
雨月かな覚えられない名の花も
月に雲かかるを君のせいにする
秋のくれ亡先生はえらかった





青山茂根
群衆の渦巻く夜の一葉かな
花さふらんるふらん蹂躙の轍
爆撃の遠き夜学にゐて眠る






2015年9月11日金曜日

平成二十七年夏興帖 第九 (川嶋ぱんだ)



川嶋ぱんだ(船団の会、(    )俳句会)
すっきりとしない案件ソーダ飲む
夏バテや麻婆豆腐誘われる
万緑の納豆菌をかき混ぜる
夏痩せてぴりぴりしてる唐辛子




2015年9月4日金曜日

平成二十七年夏興帖 第八 (真矢ひろみ・神谷波・渡邉美保・西村麒麟・飯田冬眞・近江文代)




真矢ひろみ
意味に飽く少年少女夏の果
白シャツの深く息する美白かな
成長す入道雲のあやふやに



神谷波
天網の弛みに弛む暑さかな
積み込むは離婚の荷らし百日紅
夜な夜なの守宮に声を掛けてやる



渡邉美保
船涼し鯨の形の島を過ぎ
八本の足のもつるる夏の蛸
海難の無縁墓古る百日紅
海光に浮かぶ獅子島夏の果



西村麒麟
阿の口が息を吸ひたる昼寝かな
玫瑰やまづ輪になつてストレッチ
夏野行くオープンカーの調子良し
行く夏を惜しみつつ食ふ光りもの
寝るまでを楽しんでゐる夏布団



飯田冬眞(「豈」「未来図」)
パセリ食む酔ひ覚めの顔突き合はせ
ついばみし命の数を羽抜鳥
夏座敷枝毛気にする姪の指
あめんぼう転々と居を移し行く
泡吐かぬ方の金魚に名をつけて



近江文代
海水着秘所はしづかに濡れ残り
炎昼の女は影を鋭くす
噴水のはたと止みをる世の終り
生産をしない体に夏の月
肉声の限りを尽くし夏終る





2015年8月28日金曜日

平成二十七年夏興帖 第七 (羽村 美和子・関悦史・瀬越悠矢・前北かおる・小沢麻結・仲田陽子・月野ぽぽな・近恵)



羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
古代蓮十四五本は深眠り
化粧パックに隈取りの柄仏法僧
夕暮れの四隅あいまい青蜥蜴



関悦史
飛ぶカナブン追ひゆく食欲の雀
閉ぢられて超自我となる扇かな
イスカンダルの海を思へば涼しからん



瀬越悠矢
号令に級長の癖さるすべり
前衛に定めありなむ浮いてこい
夏旺んなり革命に詩のあれば



前北かおる(「夏潮」)
雲の影取り払はれて夏野かな
日おもてを歩む鴉や夏野原
火の粉振り撒きて子の泣く夏野かな




小沢麻結
栗の花散らばつてゐる夜明かな
夕立やざくざく駆くるスニーカー
はたた神甲斐の旅客を睥睨す



仲田陽子
ステンドグラス越しの福音蝉時雨
空蝉を集めるごとき安息日
涼しさや切り落とされしパンの耳
ピクルスの種を抜かれし穴に夏
百日紅眠りたりない日曜日




月野ぽぽな(「海程」同人)
炎天の重心ずれる旅鞄
近道は細道ゆうやけの匂い
ひとしずくまたひとしずく蛍の火



近恵(こんけい「炎環」「豆の木」)
何度でも手花火戦後民主主義
蝉の翅伸び夢見るという病
夕焼けの始まりは水の音して





平成二十七年夏興帖  小諸日盛俳句祭編 追補 ( 飯田冬眞 )




飯田冬眞(「豈」「未来図」)
噛み合はぬ藤村論や日の盛り
鮎釣の水を漕ぎくる八重歯かな
虚子庵をかがみて訪へりつづれさせ




2015年8月21日金曜日

平成二十七年夏興帖・六 小諸日盛俳句祭編 (筑紫磐井・長嶺千晶・中西夕紀・仲寒蟬・青木百舌鳥・北川美美)




筑紫磐井
修羅越えて来し鮎ばかり千曲川
骨牌(こっぱい)のダイヤ・クラブと避暑地かな
羅鈿語で神父告(の)らるる朝涼し
虚子はまた大文学か小諸暑し
まむし恐ろし阿字真言の山に棲み
夕立に自由自在な小学生



長嶺千晶
ことごとく穂は直立の暑さかな
高原を統ぶるごとくに白日傘
岩あれば流紋を成し鮎の影



中西夕紀
懐古園二句
かき氷互ひの名前忘れゐて
シャツの血はわが血なりけり蚊をはがす
真楽寺三句
この池の水は田畑へ鐘涼し
こがねむし塔に木陰の刻来たり
蛇となる後生も佳かり鐘涼し



仲寒蟬
西のとんぼ東のとんぼ行き交へる
ハクサンフウロさつきの山が霧の中
ここはもう下界の一部さるすべり
峰雲の中に峰ある昏さかな
蝉もまた荒き山国樹々に風
濡れてゐぬところなどなし水遊び
空襲を知らぬ空より蝉の尿




青木百舌鳥
指さしてゐる爪ほどの青蛙
草の道鮎の川へとはひりけり
口縁のちんまり凹み燕の子
花日傘に蹤いて添ひゆく黒日傘
錦鯉なりに急発進も出来
深爪の指でトマトの熟れ具合を
老鶯の応答を待つも少し待つ




北川美美
夕立の中へどんどん入つていく
夕立の後しばらくを喫茶店
置石の確かに濡れて夕立後
川音の激しきところ鮎の里
小諸来てじんじん来たる暑さかな
湯殿にて「初恋」を読む汗をかく
飛び急ぐ浅間の夕を夏燕




2015年8月8日土曜日

平成二十七年夏興帖 第五 (関根誠子・小林苑を・網野月を・堀田季何・浅沼璞・水岩瞳)



関根誠子 (寒雷・炎環・つうの会・や)
肩凝りも旅荷のひとつ青葉行
夏帽子空腹組の遅れ出す
草川の卯の花曇り釣人も
炎天の裾と思ひて穴掘つて
蝉の殻友達ならばなれたのに



小林苑を
荒梅雨や下北沢のきのふけふ
水無月の三面鏡に首を入れ
三人のおぢさん一人はアロハシャツ



網野月を
右巻きを左へ燃える蚊遣香
蝸牛走り出しても直ぐ止まる
格好悪い形状記憶夏帽子
冷酒をそれを過失と言うなれば
人だけど人間じゃない土用の芽
ホームレスのブルーシートへ守宮ドサッ
危険!さわるな!粘暑獄暑




堀田季何(澤)
安全保障七句
にせものの猫脚なれば蟻のぼる
なかんづく伏魔殿めく蟻の塔
暗黒の宮殿捨つや若き蟻
暗黒の関東平野を蟻の無為
塚見えて働く蟻に戻りけり
つぎつぎに蟻踏んでゆく前の人
蟻避けて歩行補助杖つく速さ



浅沼璞
白蚊帳に透けて動かぬ高島田
花魁の素足ひらける袋綴ぢ
蟻右往汝左往して愛しけれ
中空の金魚の面の小癪なる
風情やや番頭めける梅雨鯰
がゝんぼや鍵を驚く牢腐し
昼寝覚あの世の嘘を裏声で



水岩瞳
忠霊塔のそばの馬魂碑五月闇
少年にアメリカの匂ひ夜のプール
たばしるや赤子の尿も喜雨の中
只ならぬ世に男の子裸の子
兵士死んで国の誉れとなる明日




2015年7月31日金曜日

平成二十七年夏興帖 第四 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・早瀬恵子・夏木 久)


下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
日本中いづこも朝や水を打つ
夏服の穴から手出し頭出し
ひと葉づつ増え睡蓮に莟かな



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
サングラス外すプラネタリウムかな
燭台の暗く鋭く夏館
風鈴を吊るしてパリの空の下



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
水吸つてゆく土を見て日の盛り
蟬鳴いてこれが最後といふ翳り
時々の思ふこころと外寝かな



依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)
花茣蓙に立つひと粒の米痛し
飛ぶやうに蟻の来りし読書かな
躍る木の下で踊るや古浴衣



早瀬恵子 ( 「豈」 同人 )
わが名うき胎蔵界のハンモック
ミンミンの命の幅のフォルティシモ
哲学はワイン・オリーブ・トマト・ナス



夏木 久
良い鰹ですと半身を披講され
月下美人夜が固唾を飲む音に
蚯蚓鳴く空を抱へて死ぬために
冷蔵庫より卵は娑婆へ五日ぶり
骨付きの時をオーブン焼きに夏
天の川の底で淋しいワニになる
狐火と皆が言ふならさうでせう






2015年7月24日金曜日

平成二十七年夏興帖 第三 (林雅樹・堀本 吟・小林かんな・小野裕三)


林雅樹(澤)
君と来て祭やあとはノープラン
見世物小屋蛇食ふ女ちよつと綺麗
ジャン・ジュネや盗みし本を夜店に売り



堀本 吟
青嵐が悪い噂をばらまいた
巴里祭や品定めなど愉しかろ
革命はおとうとのレゴ壊すこと
明易し訃報一斉メールにて
安寧や凌霄花垂るるほど



小林かんな
コピー機の最後のボタン虹かかる
風鈴の紐の強さをふと思う
明るくて刺し急ぎたる海月かな



小野裕三
ゆくゆくは秘密を明かすキャンプかな
浮いてこい原寸大で浮いてくる
風鈴の空どこからが消去法
鈴音を並べ暮らして日の盛り
片陰のくにゃりと溜まる研究所

2015年7月17日金曜日

平成二十七年夏興帖 第二 (仲寒蟬・花尻万博・木村オサム・望月士郎・佐藤りえ)



仲寒蟬
殷周の前に夏のあり梅雨鯰
すれ違ふ巨船と巨船かき氷
海峡の向かうも日本花うつぎ
遊船の後ろ軍艦停泊中
最新鋭戦闘機へと草矢撃つ
雷とおなじ高さの階にをり
邪馬台国まで百余里をみなみ風



花尻万博
時化の日の朝日に透けて巣立ちけり
青梅に午前の似合ふ涼しさよ
浄土に鬼 鬱金(うこん)色に花蜜柑
蠛蠓の眠り浮かべば光らざる
水槽を抜けて灯点る単帯
麦の穂と南紀の畳乾くなり



木村オサム(「玄鳥」)
冷蔵庫からよく冷えた十二使徒
裸なのにてらてら機械めいた奴
峰雲へ志望動機を叫びをり
永遠に留守のままなる濃あぢさゐ
持ち歩く骨エルサレムまで西日




望月士郎 (「海程」所属)
蛇の真ん中あたりにある正午
金魚掬いみんな外科医の貌をして
髪洗う闇に潜水艦浮上




佐藤りえ
休日はウツボカズラを擬態する
みちのくの鹿の子はよい子舌を出す
液体になるまで堪え蛞蝓
夏めくや一般的な叫び方
くちなはの真青の方について行く




2015年7月10日金曜日

平成二十七年夏興帖 第一 (曾根 毅・杉山久子・福永法弘・池田澄子・ふけとしこ・陽 美保子・内村恭子)




曾根 毅(「LOTUS」同人)
太古から眠りを覚ます蛇の舌
瀧流れ落つるに全て任せけり
脈打っている初夏の白シーツ



杉山久子
くちなはを威嚇する眼の縹色
優曇華や黒ヌリの書を透かし見る
匙の柄に金の鳥ゐる昼寝覚




福永法弘(天為同人、石童庵庵主、俳人協会監事)
蛍見やほのかに白き行者橋
白川に落ちて蛍の流れけり
白川に沿ひ祇園まで蛍追ふ




池田澄子
葉桜の日陰紅茶のような優しさ
枕優し中は夜風の葉桜かや
カヤツリグサ心残りは砂利のよう
要するに恋人は汗もて光る
光ファイバー通信網戸越し守宮




ふけとしこ
枇杷の実に残る青さも生家なる
何か生れさう指に押す枇杷の種
遠く見て睡蓮近づいて睡蓮




陽 美保子(「泉」同人)
挺身の光ひとすぢ旧端午
一艇を運ぶ肩あり雲の峰
包丁の腹を使ひぬ半夏生




内村恭子 (天為同人)
けふも街走る地下鉄明易し
フォークリフト蠢く波止場油照り
梅雨深し工事のランプ点滅す
キーボード叩き続ける熱帯夜
短夜や工場は火を吐き続け


2015年7月3日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第七(豊里友行・近恵・大塚凱・小沢麻結・小林苑を・瀬越悠矢・関根誠子・飯田冬眞・岡村知昭・筑紫磐井・北川美美)



豊里友行
蝸牛全力疾走の流星
光年の一筆書きの蝸牛
指揮者なる雨の楽譜のカタツムリ
カタツムリ虹の発条弾いている
月光のジャズを吐き出すカタツムリ
蝸牛虹のタイムトンネルなり
衛星のアンテナになるカタツムリ



近恵(こんけい「炎環」「豆の木」)
身体中羽になる日の白木蓮
玄関に花びら落ちていて眠い 
鳥だったはず石鹸玉ことごとく割る
桜降るときどき追いついてしまう 
囀のかたちになってもうおわり



大塚凱
梅一輪探せばあをぞらが近い
拝むときこころまつしろ梅匂ふ
知恵ほどの白梅遠き枝にあり



小沢麻結
鶯ややや右向きの土の神
迷ひ消すための短刀時鳥
描かるる裸身はつらつ花真紅



小林苑を
空白やグラジオラスの倒れてをり
灯ともりて箱庭となる野球場
ペンギンが日本脱出する夏だ



瀬越悠矢
バス停に浜の字多き旱梅雨
禅堂に連なる笠やかきつばた
街騒にたゆたふ祇園囃子かな



関根誠子(寒雷・炎環・つうの会・や)
羽繕ふ黒鳥のゐて夏至曇り
語らない夫婦深山の夏鶯
土塀長し今度は柿の花の散り



飯田冬眞(「豈」「未来図」)
囀のこぼるる父の記憶かな
聞き返す鳰の浮巣のありどころ
見過ごして二人静に振り返る
花は葉に地を擦るやうに介護バス
桃の花腕組む父の待つもとへ



岡村知昭
めんどりかどうか確かめ片蔭り
はなびらもみどりごも食べ羽抜鶏
おんどりを廊下へ放つ白夜かな



筑紫磐井
男声のトイレが開け山笑ふ
うららかに散歩唱歌の終り遠し
虚子の句は不思議な句なり木瓜の花




北川美美

春風や草子と書いてかやこなり
草吉をそうきちと呼び風信子
鶺鴒や右手にはげしき谷のあり




【花鳥篇特別版】澤田和弥さん追善句 追補  (上田信治)




上田信治
五月ああキツキツだつた君のシャツ





2015年6月26日金曜日

【花鳥篇特別版】澤田和弥さん追善、その3 (仲田陽子・小沢麻結・堀田季何・仲寒蟬・小林かんな・飯田冬眞・西村麒麟・依光正樹・依光陽子)



仲田陽子
清音を淫らにかさね青葉騒
木星に近づいているさくらんぼ



小沢麻結
飲み止しの泡なほ盛んソーダ水
茅花流し青ざむ愁眉開かれよ
明易や誰が詠ひ継ぎ革命歌



堀田季何
天国の水は平し君が手に
天国の水は平し君が胃に
天人の胸は平し君が眼に
天人の胸は平し君が手に



仲寒蟬
生きるのに疲れたといふ山椒魚
パレードの先頭は彼栗の花
親指のやうな字雲の峰に書けよ



小林かんな
革命のため白靴の紐結ぶ
夏帽子追いかけて海渡りけり



飯田冬眞(「豈」「未来図」)
汗だくのカレーライスの左利き
革命の前夜静かに蟹来たる
目瞑れば蟹ざわざわと浜に満つ
草笛や黒ネクタイをなびかせて
   *
澤田君との出会いは、彼が例句入力のアルバイトとして私の勤務する会社にやって来たのが最初でした。
彼を連れてきたのは、佐藤文香さんだったはず。
数年後、句会をご一緒にするようになり、辛い物が苦手な私と辛い物が平気な澤田君とで、カレーライスの早食い競争をしたり、カラオケに行ってふざけたり、気の合う弟みたいな存在でした。
最後に会ったのは、昨年の芝不器男俳句新人賞の会場でした。
FBで訃報を知って、虚脱感に襲われました。
心よりご冥福をお祈り致します。



西村麒麟
君のことまた思ひ出す新茶かな
新樹光握手してから手を振つて
すぐ照れて戯ける人よ夏休み
真面目な手紙真面目な新茶の贈り物
君の訃が嫌で夏食ふおでんかな
しょうもない話がしたし生ビール
ぽつかりとした六月を過ごすなり



依光正樹
水遊び了へたるあとに舟ひとつ



依光陽子
泣いてゐるときもありしか昼顔に



2015年6月19日金曜日

【花鳥篇特別版】澤田和弥さん追善、その2 (筑紫磐井・岡田由季・関悦史・北川美美・中山奈々・大井恒行)



筑紫磐井
青春ともよ革命は近いのに



岡田由季(炎環・豆の木)
永遠の前夜行き交ふ金魚たち
為す術もなく気の抜けるソーダ水
二階から人類を見る青嵐



関悦史
五月その毛深さを知る機会なく



北川美美
影のみの五月の鷹を思うかな



 中山奈々
金魚玉抱へて逝つてしまふなよ



大井恒行
前夜なりけり寺山・澤田早逝す







2015年6月12日金曜日

【花鳥篇特別版】澤田和弥さん追善、その1 (神谷波・曽根毅・真矢ひろみ・福永法弘・杉山久子)




神谷波
どうしたのなにがあったのほととぎす  



曽根毅
鯉幟夜明けの風を待ちにけり



真矢ひろみ
もうすでに花に生まれてゐる頃か 澤田和弥(「ふれんど」落選展2014・週刊俳句より)
かげろふの無方無縁の海に翔ぶ    
煉獄を君ならばもう過ぎる頃
連絡乞う無限を詞にできますか




福永法弘(石童庵) 
わくらばに前夜の震へありにけり   
慈悲心鳥夭折伝に列すべし



杉山久子
五月果つ海色インクこぼしつつ


2015年6月5日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第六 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・五島高資・真矢ひろみ)




下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
囀やよく会ふ人の名を知らず
いつからか巣に燕ゐる雨の音
花も葉も手よりつめたき牡丹かな



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
一片の離れて逝きし八重桜
夏鶯のこゑより高く登りけり
白菖蒲きのふの白に逢へずとも



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
近づいて木立に鳥や水遊び
姫著莪にきらきら飛んでゆく鳥よ
春禽のとほり抜けたる人の中



依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)
牡丹の中や真昼を睡る虫
ひなげしに破りとられし頁かな
浮き咲いて仏の如し金蓮花




五島高資
零れつつ昼を香らす花馬酔木
野を越えて聞くせせらぎやすみれ草
触れ合って水の廻れる桜かな
日の神や田の神を待つ燕子花
ムスカリや旅にしあれば畝に咲く



真矢ひろみ
白鷺の一二一と大見得を
己が影を求めぬものに青鷹
おとうとはとど松のみの十姉妹
片蔭に待ち人を待つ姑獲鳥かな
頻迦聞く土星を過ぎしあたりより

2015年5月29日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第五 (水岩瞳・小林かんな・神谷波・田中葉月・福田葉子・羽村 美和子)




   水岩瞳
おととひもきのふもけふもさくらかな
桜まじ歌ふは「わたしの城下町」
   クラシック喫茶
木屋町桜ここはミューズがあつた場所
ほめられてばかりじやさくらもつまらない
わびさびも細み軽みも散る桜


   小林かんな
ふところに夏うぐいすと亀の池
若鷹の心にかなう風来たる
一日を荒ぶる青鷺でありぬ


   神谷波 (「豈」)
古都の空しつとりナイチンゲール鳴く
煙突に仲睦まじく鸛
物乞ひもかもめも薄暑の甃
そこここに遺跡そこここに罌粟の花
墳丘の内部暴かれ罌粟の花
飯粒や山鳩の鳴く谷若葉
獣らは息をひそめて椎の花


   田中葉月
白れんや大地は胎児さしだしぬ
骨壷のガタガタ言ひぬ濃紫陽花
どうしてもあなたでは駄目水鶏鳴く
花薊生まれも育ちもCity girl
消えさうな今日と言ふ日の白牡丹
これやこの男心や松の芯        
                                                                                                

   福田葉子
たまさかに人を疎みぬ花の兄
アンニュイの午后やアネモネの濃紫
雲珠櫻むしろ紫長岡忌
藤の房黄泉のひかりを宿しつつ
青梅に微量の青酸深きひる


   羽村 美和子(「豈」「WA」「連衆」)
三角定規なぞって五月の森開く
白薔薇鎖骨ラインを出してみる
青葉闇奥に仮面が吊されて
青水無月 戦に征きたい人は手を
永遠にダンボ空飛べ花水木





2015年5月22日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第四 (小野裕三・早瀬恵子・浅沼・璞・林雅樹・網野月を・佐藤りえ)




小野裕三 (「海程」「豆の木」)
飛花落花基礎科教室やや暗く
万有引力の降る町花ミモザ
青空の定義はどこだ水芭蕉

 
早瀬恵子 (「豈」同人)
一瞬を光り溢れる花鳥かな
艶書かなタータンチェックに花篝
この渓に新たな時や鳥の春


浅沼 璞
右にやや傾ぐ癖あり姥桜
総身の皺伸ばさばや桜守
牡丹めく唇めくれ端女郎
花魁は御歯黒溝で目白押し
やじろべゑ囀りのむず痒くして
囀りを凡人あたら上の空
百千鳥串二万本塩千噸



林雅樹 (「澤」)
幔幕の雨に濡れたる桜かな
燕や主死にたるゴミ屋敷
明治座に指原莉乃や暮の春
新樹に消ゆる下着泥棒三鷹の怪


網野月を
空炬燵ねこに苦労と意地と見栄
憐れなり子猫の視線に動くもの
この頃はスリムなパンツ仔猫小猫
わがままだけど嘘はつかない子ネコ
母の日に父の朝寝を起こす猫


佐藤りえ
カーテンなくて桜の見える部屋
シベリアに水疱瘡のやうな穴
皇帝に蝶の脚ある砂漠かな
宇宙塵載せて額のプレパラート
満身の鱗剥落人となる


2015年5月15日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第三 (東影喜子・ふけとしこ・望月士郎・堀本 吟・山本敏倖・仲寒蟬)




東影喜子
囀や君が笑うといふ事件
特急の過ぎて菜の花畑なり
桜蘂降るよお母さん聞いて



ふけとしこ
頬白に朝来る今日の喉を張り
郁子咲きしことを一行加へけり
捨てらるる家一八の群れ咲くも



望月士郎 (「海程」所属)
ひとりの日巣箱の穴に目を落す
足裏にマリアの凹み鳥雲に
とおりゃんせ花降る夜のうしろまえ



堀本 吟     
たんぽぽの絮はまあるい地球なり
おやしらずが横へ出てきたつくしんぼ
おやしらず抜いた大人や時計草
老鶯や笑気麻酔の部屋に居て
手術後の目ざめ窓から夏がらす



山本敏倖(「豈」「山河」)

青眼の切っ先が来る藤の影
化石まで韋駄天と紹興酒かな
あやとりの宇宙を描く炭酸水
昼寝は甘酢甘酢らしくする
黒日傘をはみ出す尻尾昼の月




仲寒蟬
真昼間の星とも見えて花辛夷
登りゆく竜と交差し落雲雀
葬の村いきなり連翹など咲かせ
街騒を力としたり初燕
蝌蚪の死をなかつたことにして長雨


2015年5月8日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第二 (関根かな・中村猛虎・山田露結・夏木 久・坂間恒子・堀田季何・大井恒行)




関根かな
あたたかき日にしてください散骨は
一瞬も永遠も知るしやぼん玉
陽炎の出口にもうひとりのわたし


中村猛虎(なかむらたけとら。1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。)
わたくしを数えて下さい愛鳥週間
さくらさくら僕が残せたものは何だ
花の宴つまみはナトリと決めてます
車前草やクロスワードは埋まらない
君くれし玩具の指輪吊り忍
向日葵のネイルが捲る堕落論



山田露結(「銀化」)
夏近き水の破片としてわれら
緑陰や人形の顔ひび割れて
蠅を打つ妻眺めゐて午後長し



夏木 久
さう言へばそんな仕事も五月雨の
薔薇園のとほい渚を咀嚼せり
缶蹴りのそれはそもそもボブ・ディラン
原発の風に吹かれて鳥雲に



坂間恒子
うぐいすの声と声とがボッティチェリ  
無国籍のおとこありけり桜貝
山門のさくら青空はいらない



堀田季何(「澤」「吟遊」)
花の雨巫女の囈言(うはごと)聴くごとく
花の樹を抱(いだ)くどちらが先に死ぬ
花の雲鳥容れたれば鳥殺す
月射せば獣の匂ひ犬桜
桜咲く民の幸薄るるごとく
花衣脱ぐや顔だけ汝に向け



大井恒行
山の鳥くだりて来たれ花こぶし
鳥とべる孤影は澄みて鳥世界
わが鳥の四月の羽の濡れこぼる

平成二十七年春興帖、追補2 (仲寒蟬)



仲寒蟬
蛇出でて蛇の長さの穴ひとつ
飛行機の巨大な影や潮干狩
おいそれと回らぬつもり風車
額縁に切り取られたる海市かな
下駄箱に閉ぢこめられてゐる春愁
花の山仮設トイレの混み具合
水門の脇に水路や春惜しむ

2015年5月1日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第一(杉山久子・曾根 毅・福永法弘・内村恭子・木村オサム・前北かおる・仙田洋子・陽 美保子)



 杉山久子
雲雀野に雲ばかり見て長居せり
薔薇は蕾解きつつ雫こぼしつつ
梨の花ほどの白さの名刺受く


 曾根 毅(「LOTUS」同人)
金屏の冥きところに山桜
巣箱からこの世の空を見ていたる
閑かさや死を待つ人と風見鶏


 福永法弘(「天為」同人、「石童庵」庵主、俳人協会監事)
好色者すきものと我が名呼ばれん初桜
巣立鳥虚子に三高時代あり
バスで行く修学旅行花水木


 内村恭子(「天為」同人)
春宵や羽あるものが帰る水
夕闇にまぎれ飛びたる蚊喰鳥
闇深くなれば夜鷹の高き声
青葉木菟静かに首をひねりたる
歯朶青し異形のものが浮遊する
水無月の森の夜明けの水蒸気
鳥たちの目覚むる時や虹生るる


 木村オサム(「玄鳥」)
分度器を透かして桜見てをりぬ
夜桜やぬっと現る両陛下
ちちははを見かけしあとの花筵
思い出し笑いのかたち夕桜
晩餐のユダの盃飛花一片
死ぬまでは少し離れて見るさくら
平成は貧血の顔花明り


 前北かおる(「夏潮」)
若桜いつかももいろクローバー
朱鷺色を重ねて乙女椿なる
絵の道具取り散らかして若草に


 仙田洋子
流し雛バンザイクリフまで来ぬか
   お大事に
春の風邪引きし女に会へぬまま
先生が先に着いたる春の川


 陽 美保子(「泉」同人)
白文と読み下し文囀れり
戯れに鴨追ひかけて残る鴨
曇天は雲ひとつなし揚雲雀



平成二十七年春興帖、追補 1 (林雅樹・西村麒麟・羽村美和子・竹岡一郎・東影喜子・山本敏倖・大井恒行)



    林雅樹(「澤」)
雪解の原に童貞処女乱舞
人肉市場子ども解体ショーや春
西行法師死ぬの今でしよ花の下


  西村麒麟
涅槃して干物の国の駿河かな
春風や干物を買つて靴買つて
遠足の変な仏画を見てをりぬ


  羽村 美和子
花菜畑どこから切り込む評論家
花吹雪感染経路解明中
花散らす遊びせんとや花の鳥


  竹岡一郎(「鷹」同人)
飯蛸を切つて幾つも恋をして
花ふぶく夜は咆哮の二人かな
土筆抜きつつ閨怨を鎮めつつ


  東影喜子
花冷や切られて豆腐つぎつぎ浮く
褒めすぎる人と野遊の花を摘む
講堂に鳥迷いこむ花曇



  山本 敏倖(「豈」「山河」)

亀戸天神五句
境内をのの字にめぐり藤に着く
藤の香と水霊を割り亀二頭
満開の藤の間に立つスカイツリー
道真の語り部となる亀と鴨
藤棚の下は黄泉への非常口


  大井恒行
かがやきの葉のさびしさをよぎりけり
鳥声ののぼる欅の芽などあらん
行く春の鳥の恩寵 鳥語よ我に