2015年11月27日金曜日

平成二十七年冬興帖 第一(曾根 毅・杉山久子・陽 美保子・小林かんな・山本 敏倖・網野月を・夏木久)



曾根 毅(「LOTUS」同人)
霜柱胎蔵界を突き出せり
地に還るまでの刹那を寒牡丹
籠城の静けさにあり冬菫



杉山久子
初雪と聞き旅の荷に足す葉書
ジブリアニメヒロインのごと冬木立つ
着ぶくれてジェネリック薬品に諾


陽 美保子(「泉」同人)
鯛焼好き大判焼きはもつと好き
モンゴルはオオカミの国大枯野
声なくて綿虫ただようことしたり



小林かんな
おにぎりは小さき富士か小六月
常設展より始まりぬ落葉径
黄落や腕の行方の思わるる
横笛を吹く少年や冬の空
画架あまた畳まれて七竈の実




山本 敏倖(豈・山河)
 十一月の手品師はさばんな
人形にたましい入れる火事と鼓と
沸点までの経緯かくし冬紅葉
続編は冬の虹立つ裏サイト
人間になる音見つけ帰り花




網野月を
秋は赤ドローン瞰図に二割ほど
時雨闇原稿用紙が足りない
秋高し円周率(パイ)を諳んじている男
しぐれ忌は雨の好日棚田道
歯石取る定期検診芭蕉の忌
ポスターの顔へ落書き柿熟るる
ズボン役の二人誘ひもみじ狩



夏木久
抽斗の闇を切り取り鶴を折る       
湯豆腐を雪降るやうに後悔す
血の滲む余白を突く烏かな
枯葉舞ふ欅並木といふ隙間
シャッフルの後に引きたるQの影
穴を開け聖夜にそつと入るかも
永遠の夜の踏切に人の影



2015年11月20日金曜日

平成二十七年秋興帖 第九 (秋月祐一・青木百舌鳥・飯田冬眞 ・宮﨑莉々香・北川美美・大井恒行・筑紫磐井)


秋月祐一(船団の会)
楽しげな手話のおしやべり小鳥くる
土瓶蒸し父と慕つてゐる人と
ペン先はぬるま湯のなか秋惜しむ



青木百舌鳥(夏潮)
案山子ともスピード違反抑止とも
毛見なぞに非ずよ見惚れゐたるだけ
栗の毬足の親指このあたり
のぼり来て籠の茸のしづみをる
秋空が近しレタスに甜菜に




飯田冬眞 
饒舌なふりは処世と法師蟬
スイッチをつけては消しぬ夜長かな
ちちろ虫母は日記を盗み読む
海遙か無臭の菊を供へけり
虫の闇木馬に体ゆだねをり
十三夜記憶の紐を解くやうに
残菊や紫煙まみれの未定稿



宮﨑莉々香
食べられてしまふかまきりとかまきり
朝顔に吸ひ取らるるが時間なり
パソコンのうへの柚子から黄色くなる




北川美美
秋灯の沈みつつ揺れ野外劇
鳥と鳥ぶつからず飛ぶ昼の月
印度とか新世界とか林檎の名



大井恒行
あさがおに山川のかげ陽のなげき
晩夏晩秋はんざきを飼い首長し
秋ついり魔女をさびしむ窓の雨





筑紫磐井
秋日傘が行くそつけなきメロドラマ
兜太の字溢れて八月らしき街
銀座にも芋名月の老舗かな





2015年11月13日金曜日

平成二十七年秋興帖 第八 (浅沼璞・中村猛虎・西村麒麟・坂間恒子・五島高資・真矢ひろみ)



浅沼璞
欄干に亀吊さるる放生会
鶴翁が旧居さまよふ狭霧かな
霧雨の霧を嗅ぎ分け来よ鬼よ
白露や篠竹たわむ付け睫毛
月天心猫脚の椅子動きだす
月光の階段を這ふ手足かな
障子貼る手長足長ろくろ首



中村猛虎(なかむらたけとら。1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。)
黒葡萄その一粒の地雷原
横浜港秋冷を密輸する
鏡から出てこぬ妻よ啄木鳥よ
秋霖の隙間を埋める母の息
女から紐の出ていて曼珠沙華
鯵叩くテレビは吉本新喜劇
あっそうか引きこもっている蓑虫か


西村麒麟
茸から茸へ跳んで逃げしもの
集まつて大小の毒茸かな
しろしろと頭の小さき茸かな



坂間恒子(「豈」「遊牧」)
封を切るブラックペッパー蟲の夜
銀河系とぎれずに鳴く昼の虫
燧石大音声の実むらさき




五島高資
色葉散る下天の内やホルトノキ
うつせみの玻璃にゆがむや秋燈
寝過ごしてひとり降り立つ銀河かな



真矢ひろみ
骨盤を落とし肋骨を上げて秋
月天心アポトーシスの始まりぬ
意味ならばゑのころぐさに聞きなさい




2015年11月6日金曜日

平成二十七年秋興帖 第八 (下楠絵里・田中葉月・豊里友行・水岩瞳・羽村 美和子・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下楠絵里(「ふらここ」)
台本の端に折り目や鰯雲
やはらかく変はる表情草の花
老蝶を追ひぬ真白の衣装にて
秋澄むや楽屋を発つときの呼吸
独唱の指先満月に触るる
照明のなかのしづけさ文化の日
舞台いま木材となる暮の秋



田中葉月
海苔巻きにまいてみやうか花野風
みどり児のおくるみ真白あけびの実
白桃や刃先にエロスほとばしる




豊里友行
花火咲くじょうずに島を切り売りて
空高く積み木の沖縄大和口(ウチナーヤマトグチ)
西陽射す白蛇と化すアスファルト
売りません幾度曲がれど石敢當(イシガントウ)
ジャスコになっちゃった少年の水平線
海を売り舟より花札の落ち葉
散る花火苔のむすまで埋立地




水岩瞳
ゼロ戦は飛ぶ八月の海の底
とこしなへ鬼が隠れし薄原
愚痴その他月光仮面のおじさんに
まだ無月女将掲げる紙の月
ややこしき吾に辟易とはの秋




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
秋うらら休日倶楽部に十返舎一九
木犀の香の渦巻いて銀河系
真夜中の胎動一つ烏瓜
貧しさのこんなに背高泡立草




下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
風の音音楽の音秋の音
おもなみと云ひ間違へて秋風に
けふの風に遊びのありし冬仕度




岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
姿よき人来る頃やくわりんの実
火恋し椅子の丸みを撫でてゐる
うちとけて栗飯のある談義かな




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
色鳥や歩いて二人だけの径
手にのせてうれしき木の実降りにけり
初紅葉きのふの傘の汚れしまま




依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
ひろびろとかなしき虫の原に佇つ
其と見れば秋の芝なり匂ひ立つ
朱を点じては暗がりへ尉鶲