2016年9月30日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第四 (木村オサム・青木百舌鳥・関根誠子・小野裕三)



木村オサム(「玄鳥」)
蝉時雨よりの円形脱毛症
ほとんどの昼出目金に食われけり
どちらかというとプールの隅にいた
日に一度花氷着く無人島
虫の夜に放ちて残ることばが




青木百舌鳥(「夏潮」)
術もなく呑まれ涼しき雲の中
軒となく木瓜に楓に氷旗
空掻いて落ち逃げてゆく蜥蜴かな
保留地の草ばうばうにペチュニアが
釣堀の準備中なるもぢりかな
近づけば樹々に塞がれ遠花火
親切で無知で花火の警備員





関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会所属)
茶を点ててこころ励ます夕蓮
廻し読む恩師の手紙夜の秋
唄ひつつ匣へいなづまをしまふ




小野裕三(海程・豆の木)
大人ばかりぞろ目のように入梅す
熟考の頭潜っていく大暑
騎馬像を成し遂げている日照りかな
卓球部員揃えば薄い虹に澄む
向日葵咲く絶対の地下へ大東京





2016年9月23日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第三 (石童庵・仙田洋子・小林かんな・神谷波)



石童庵
海霧が這ふ七つの丘の街リスボン
涼風の吹き来るアレンテージョより
涼しさやヴィーニョ・ヴェルデの泡仄と
聖家系樹へステンドグラス越し夏日
テンプル騎士団の紋章夏盛ん
巡礼来る灼けて雲母のこぼるる地
オリーブ稔るガリヤ戦記に名ある街
葡萄育つ渓深ければ橋高し
渓涼しサンデマン社の黒マント
シャツを干す世界遺産の街ポルト



仙田洋子
ペガサスの疾駆して夏来たりけり
焦がれ死すとき眼裏に螢の火
ゆきずりの螢袋にもぐりこむ
初恋のひかり噴水のひかりかな
浜にさすコロナの瓶や晩夏光
はんざきや色恋沙汰に遠くゐて
セシウムの乳出す牛を冷しけり
大花火空をなかなか眠らせず
初恋は銀河きらめくごとはつか
新涼や雲はシン・ゴジラのかたち



小林かんな
静物の籠の果実とありの実と
白粉をはたくどこかで鵙の声 
野分晴視力検査の和歌読んで 
十六夜を反りて山海塾の四肢 
眼帯の裏はカンナを消せずにいる



神谷波
月涼しすこしおどけてバイオリン
梅干すに絶好八月六日かな
仏壇の前で向き変へおにやんま
おにやんま出口わからずつまみださる
それぞれの帽子へつくつくぼふしかな
墓といふ墓に鬼灯くらくらす




2016年9月16日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第二 (杉山久子・浅沼璞・田代夏緒・曾根毅)



杉山久子
包帯に血の色枯るる大南風
向日葵に瞳のあらば豹のごと
起し絵に俯く女反る女


浅沼 璞
母の日のスカートなびく星条旗
この男ゴミ箱生まれにて万緑
鉄塔の下を全身さみだるる
蟻の道誘ふ地の穴へ誘はれ
たどり来し道しらじらと蟻の塔


田代夏緒
南風木綿の笑顔なら無敵
自画像の子規の見つむる蚊遣香
茄子切ればすぐに錆びゆく親不孝



曾根 毅(LOTUS)
暗く暗く水面に刺さる鵜の形
黴の花禊のあとは沓を履き
箸に火の移りし二百十日かな



2016年9月9日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第一 (網野月を・小林苑を・池田澄子・夏木久)



網野月を
口口口しか見えないツバメの子
口よりも声の大きな燕の子
時鳥アルゴリズムの老いを啼く
老鶯やハスキーヴォイスの谷渡り
羽抜鳥見て見ぬ振りの与ひょうかな
電球の中の渦巻き夏祓
右回り左回りの茅の輪かな
しゃも鍋でもビールがうがい薬なら


小林苑を
幽霊が映画館から出て行かぬ
夏休み投げては戻るブーメラン
交通量調査の人の麦わら帽
よく曲がる胡瓜だ友達にならう
夜の蝉ぷつと強制終了す


池田 澄子
遠方へ行きたしと居る籐寝椅子
万緑や子等の声ご飯粒みたい
空々しく空あり夏の満月あり
そしてこうして忘れ忘られ涼しさよ
夕顔や気持ち隠しておく努力


夏木久
漏電や昼寝の梯子より落下
この星の水のオペラを蓮の花
皆がみな孤独であればこそ蛍
炎昼や牛タン塩焼き五百円
蔓引けば砂に晩夏の摩れし音
きりかぶへきつつききつつきりかへす
気に入らず月と海月を並べ換ふ
舟を抱き月を舫ひて懐妊す
秋蝶がピアノの渕を浮き沈む
秋風へ積極的な神社かな



2016年9月2日金曜日

平成二十八年花鳥篇 追補 (関根誠子・飯田冬眞)



関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
ざんざ降りその日椿は地獄絵に
うぐひすや葛をひいたるよな食後
緑陰を分け合ひ私・ハト・すずめ




飯田冬眞(豈、未来図)
半紙にも縦目横目や鳥帰る
理科室の標本覗く揚羽蝶
貝塚は満腹の跡早稲の花
楮の実の赫赫と生れ縄文居
目を伏せよ武器庫に黒き薔薇は散る