2016年5月27日金曜日

平成二十八年春興帖 第十一 (浅沼 璞・竹岡一郎・水岩瞳・夏木久)


浅沼 璞
駅うらゝ義和団のことなど話し
あふのけのシンディーローパー花万朶
桜湯のシンディーローパーまたゝける
かのワイングラスにひたる桜貝



竹岡一郎
役(えき)として弥生を病める丸太かな
亀よりも低き看経して狙撃
透けてから雛市巡る母子あり
折檻が接吻が鳴り抱卵期
断崖へ光あわだつ花衣
セーラー服黝ければ六阿弥陀
星間を耕す鍬の余韻かな



水岩瞳
ひらひらりこれを私の初蝶とす
梅が香や幾たびも吸ひまたも吸ふ
蒲公英や舗道の隙間埋め尽くし 
麒麟の子はにんげん不思議 花ミモザ
永き日のタカアシガニの一歩か



夏木久
戦場を消す啓蟄の未明かな
私といふ刑場のあり冬すみれ
谿多きカレーライスや調印式
ジャズを聴き眠る入江の魚や貝
議事堂の春の影なりウロボロス
春は曙あなたは最早夜汽車じやない
パセリ探しスカボロフェアーへ春ゆけり


2016年5月20日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第八 (依光正樹・依光陽子)



依光正樹 
卒業や小鳥の籠に手を入れて



依光陽子 
水槽の水景に奥卒業す
卒業の朝の蕾といふ異物
卒業の背中に街を映してゆく
卒業や置いて来し場所いくつかは
ただいまと言ひ卒業てふ言葉捨つ




平成二十八年春興帖 第十 (五島高資・川嶋健佑・羽村 美和子・西村麒麟・田代夏緒・小林かんな)



五島高資
日に向かふ竜の背中や春の暮
竜天に大倭日高見国
なゐふりて直毘神や春の朝
ゆれ止まぬ筑紫の春の夜明けかな
花に寝て天に近づく瀬音かな



川嶋健佑(船団の会、鯱の会、つくえの部屋)
暁に集まってくる春の鯱
日本の暁に飛び出す春の鯱
憂き嘆き喘ぎ雄叫び春の鯱
十五番街のつくえの部屋へ東風
やがて東風吹き抜けて午後部屋の午後
のんびりとつくえの部屋に春の塵




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
風二月哲学をする詩人の背
梅真白夜の一隅動きだす
古典抄引っ掛かりたがる山椒の芽
花あしび馬が通ると声を出し
みちのくの風のまだらを紋黄蝶




西村麒麟
蛇穴を出てゑがかれてゐたりけり
米国のビールが淡し涅槃西風
貝寄風や外で飲むならハイネケン
春宵やダーツを投げてみるも下手
鱒の顔口を開けても閉ざしても




田代夏緒
チューリップ百回呼べば芽を出しぬ
突風に介錯されしチューリップ
ちゅーりっぷ甘え上手といふ技巧




小林かんな
建築の丘せり出して春の空
溶接の面ふり向かず朝桜
帽子屋の起伏いろいろ春深し


2016年5月13日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第七 (水岩瞳・筑紫磐井・北川美美)



水岩瞳
試単片手に卒業式を粉砕す
     ※試単(しけたん)は、「試験によく出る英単語」
式はなし卒業証書手渡され
何からの卒業だつたか雲に鳥




筑紫磐井
しこめでもさなぎは蝶に 卒業す
入学も卒業もみな同じ顔
シナモンをまぶし社会に 卒業す




北川美美
先生が泣いているなり卒業歌
まなざしは宙にありけり卒業歌
卒業や校門で待つオートバイ
キネマ「卒業」永久に晩夏を告げわたる

平成二十八年春興帖 第九 (花尻万博・関根誠子・田中葉月・仲 寒蟬・山本敏倖・小沢麻結)



花尻万博
褶曲は蒲公英入れず思い出す
木の国の電波の中を木の芽時
病無き四畳半の薊かな
桐の箱スイートピーも汝が為に



関根誠子(寒雷・や・つうの会・炎環)
漕いで漕いで郵便配達夫は蝶に
春風やもう洟が出て洟が出て
咲くよりも散る花が好き旅が好き
夕がすみ果てしなくなる糸の先
散る桜あとはしいんとなる吉野



田中葉月
川底のゆるゆる逃げる春愁
あのときのあなたでしたかアネモネは
石段の石の吐息は蓬色
喝采はサーカスの中 落椿   
あれは夢だつたと言つてたんぽぽへ



仲 寒蟬
風の出てそれらしくなる花馬酔木
春眠しいくつ電車を乗り換へても
我を見る春暮の鏡裏返す
他ならぬここが海市か大東京
マトリョーシカ最後に春の闇のこる




山本敏倖(豈・山河)
きさらぎの外へ火宅の相聞歌
感触は陽炎ほどの甘味料
まっすぐに花の国境点描画
三月のあんばらんすのあんぶれら
一片の春の雪にもある重さ




小沢麻結
 薄紙に書かれし事件春灯下
永き日やむかし水母は骨を持ち
春の蠅丸ノ内線銀座駅





2016年5月6日金曜日

平成二十八年春興帖番外・卒業帖 第六 (西村麒麟・竹岡一郎)



西村麒麟
船の子も自転車の子も卒業式
卒業や二人で運ぶ長机
卒業や自動販売機がボロで
それほどの歌詞にあらねど卒業歌
何やかや持つて帰るや卒業生



竹岡一郎
卒業や校舎裏なる殴打音
卒業式生徒指導室の小火(ぼや)
卒業なにそれ退学の少女のみ美し
校庭に瞋りを埋めて卒業す
卒業式果てラブホテル混んでゐる
卒業の茶髪かをるを鬼が嗅ぐ
僕吊る僕いまも校舎に卒業せず

平成二十八年春興帖 第八 (陽 美保子・石童庵・池田澄子・坂間恒子)



陽 美保子(「泉」同人)
青空に雪掲げゐる古巣かな
啓蟄の食ひ汚したる口ひとつ
雪割りの音に公案解けにけり



石童庵
幹にサルノコシカケさくら古木咲く
血脈を離れ法脈花は葉に
ふきのたう純愛なのにゲス呼ばはり



池田澄子
鬼は外外なら星も見えるでしょう
わたくしの髪が好きらし春一番
昇りゆく春の樹液のこころもち
前をゆく人の小声の歌も春
三鬼忌の猫が引っ掻く木の根っこ 
 


坂間恒子
菠薐草どこかで世界が裏返る
蕗の薹虚子の系譜のねむらない
蝮蛇草ほそるばかりの脊柱管