2016年8月26日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第十二 (渕上信子・筑紫磐井・北川美美)




渕上信子
わたし違ふでも大虻はついてくる
雲の峰いちごソースのトッピング
蟻歩く虚子散策の道の地図
派遣かい手ぶらの蟻に聞いてみる
汗拭いて一拍おいてから文句
寝室の虫一匹を殺す汗
とんぼあめんぼ国境は静かなり




筑紫磐井
過去未来去来す虚子と灯取虫
擲ってもなげうっても黄金虫
山国(やま)の蝶・山国(やま)の蟻ゐて虚子もてなす
避暑地には本当の恋・嘘の恋
いろいろの戦後おしよせ汗しとど
  小池百合子
鉄の意志・鉄の女に向かへば汗




北川美美
紙の薔薇握り潰せば開きけり
鶯や激しき谷の向こふ側
ペンギンに水という空流し鯵





2016年8月19日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第十一 (西村麒麟・竹岡一郎,・小林かんな,・小林苑を)



西村麒麟
風の宮その足もとに蟻の道
素麺を食べつつ褒める地獄の図
もろもろのことより隠れ昼寝人



竹岡一郎
初夏の記念日舌から吊るさるる人々
初夏の記念日銃の組立選手権
結界のやうに敷きゐて夏布団
梅雨晴間土方巽凝固せる
玉苗は村の虚ろを埋めきれぬ
百年を露台に動かざる爺さま
舟として地獄に灯る夏布団




小林かんな
背の高きマネキン愛でる火取虫  
浮舟の碑を読んでおりサングラス  
金魚より長生きをして詩を読んで  
梁桁の十字に黒し鱧炙る  
理容室の椅子ごと沈む巴里祭




小林苑を
桃咲いて大縄跳びのぱたんぱたん
転居して小さな空に飛行船
瑠璃蜥蜴どうぶつ園の草叢に















2016年8月12日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第十 (花尻万博・水岩瞳・佐藤りえ・真矢ひろみ)



花尻万博
葱の花まどろみの中風聴けば
一人行く境まで羊歯若葉かな
干し蕨白々と刻を入れにけり
美しき岬蝶々新しや




水岩瞳
戦争に使はれし日々 花に問ふ
花の夜句集ひとつも残さずに
Kポップのひとり徴兵花は葉に



佐藤りえ
裏声の占星術師夏きざす
探偵は立つて新茶を飲み干せり
崖うへのゆすらをさはに欲しがりき
羽衣は天女の水着ひとへなる
マスタング路上駐車の青蛙



真矢ひろみ
磐座にブラックスワンかげろへり
空蝉をふるふ頻伽の高声かな
ビル路地の鵺と目が合ふ夏季講習





2016年8月5日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第九 ( もてきまり・堀本 吟・浅沼 璞・林雅樹 )



もてきまり (らん同人)
未来より逃げ来てそつと薔薇を吐く
身の中の藪分けゆけば蛇苺 
ダリア濃し平成平和といふ不安 



堀本 吟   
紫陽花や門ごとに佇つ老ばかり  
紫陽花や中耳が痛み始めたり
香りあるような無いよな額の花



浅沼 璞
下水路の遙かに囀れるものら
明急ぐ百景滑稽烏骨鶏
明易き鴉若気の高笑ひ
いきとめてゆつくりはいて夏つばめ



林雅樹(澤)
春深む魔法少女のステッキに
燕来るはめ絵の失せし一片に
二階より反吐の落ち来る躑躅かな
浴室の明り垣根の薔薇を照らす
ほととぎす鞭もて打てば虚子射精