2018年1月26日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第三(内村恭子・曾根 毅・神谷 波・渕上信子・大井恒行・前北かおる)



内村恭子
天窓の氷雨やフィヨルドは青く
窓に霜帆船沖をよぎる朝
毛糸編む窓辺漁より夫帰る
島に婚ありし暖炉の赤々と
冬深む夜の深さのままの朝


曾根 毅
寒林過ぐ次の電車は血を流し
どの指も朱肉に塗れ年の暮
白菜と白菜と黒いビニール吹かれ


神谷 波
石の上枯蟷螂の眠さうな
いろいろなことあり冬至のメロンパン
クリスマスイヴで大安で大欠伸
金星のここぞとばかり枯木道


渕上信子
八王子初時雨を自慢
煤払この女螺子どこから
寒鰤捌く腕逞しき
リルケを刺して冬薔薇の黙
懐炉背中にスーパームーン
寒オリオンのいよよ仰け反る
すべて些事冬の大三角


大井恒行
寒影を温くわかちて街の角
災後にも七年(ななとせ)はあり雪の華
石蕗黄なり故郷の姉はみまかりぬ


前北かおる(夏潮)
小春日や甘蔗畑の道なほし
渓流に魚の影なき真冬かな
駆け付くるサンタクロースイルカショー

2018年1月19日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第二(松下カロ・岸本尚毅・林雅樹・早瀬恵子・杉山久子・木村オサム)



松下カロ
凍るまでぢつとしてをり写真立
氷にも水にも人の映りけり
凍るたびやはらかくなる腕と胸


岸本尚毅(「天為」「秀」)
小春日の泥のやうなるカレー食ふ
ふはふはと飛ぶぼろぼろの落葉かな
しみじみと筋ばかりなる落葉かな
あをあをと落葉の下の龍の髭
憤死して落葉の宮に祀らるる
見慣れたる大海原や蜜柑食ふ
笹鳴に遠く小さく海はあり


林雅樹(澤)
目嗔らせ千葉真一や寒稽古
牽かれゆく事故車に冬に日の暮るゝ
木枯をしのぐやブルーシート張り
初雪に尾立つる犬や肛門見せ
縄張のされて空地や冬の草


早瀬恵子
雪の花ちょとそこまでの小宇宙
山茶花や人声ざわと人逝ける
影向(ようごう)の返り花めきご命日


杉山久子
初霜や投函わすれたる手紙
シャンソンに耳そばだてる狩の犬
しぐるるや木の椅子多きブックカフェ


木村オサム(玄鳥)
寒波来るウオッカの染み付けたまま
会ふたびに口紅違ふ雪女
錆びてから動かす冬の重機群
裸木に鞄を掛けて殴り合ふ
冬枯や疲れた脳の線描画

2018年1月12日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第一(小沢麻結・夏木久・辻村麻乃・堀本 吟・網野月を・坂間恒子)



小沢麻結
セーターの彼には話す今も全て
侘助や坂東へ彼いつ戻る
札幌に男足止め雪女郎


夏木久
破風仰ぐ火急の報せ神無月
膠もなく風に与すとの言伝
小春日の卓の余白にある碇
手招きに月の隙間へ枯芭蕉
星に馬車繋げば遠き祭囃子
半券を風に曝してゆく聖夜
木枯が角にこぼせる笑ひ茸


辻村麻乃
寄せ鍋をぐんぐん突きて晩鐘
冬満月今度は主婦になりたまへ
我々が我になる時冬花火
袋小路我が家の上の冬オリオン
凍蝶の戻るべくあり音楽堂
冬霧の三ツ鳥居より蜃に会ふ
初雪に摂社ずらりと並びをり


堀本 吟
 闇の鍋
 大阪に大正期の遊郭を料亭として営む店あり
極月や悪のあれこれ思うとき
遊客の霊に憑かれる冬玄関
部屋めぐり極彩色の絵に巻かれる
ご不浄寒し女将の粋(すい)の絵天井
花魁が横に来ている闇の鍋
虎刈笛むかしの妓楼いまの闇
枯蟷螂殺し文句に鎌立てな


網野月を
ワレワレハコノホシガスキ雪ばんば
あなたの視線綿虫を見るような
すきま風あの娘の箸の使い方
勇魚食う何百万分の一なりや
中に藷上にくだもの堀炬燵
現代俳句協会(ゲンハイ)やトイレの中の古暦
古暦慶子の下にコウ掛けて


坂間恒子
紛争に終わりのなくてしろさざんか
桃山の牡丹・錦鶏・冬の虹
油屋与兵衛足跡を消す寒椿

平成二十九年 秋興帖 追補(早瀬恵子)



早瀬恵子
四の五の六のお湯割りや白秋忌
天馬ひき方言屋台月の顔
娘から紅 枝変わりにてさつま芋