2018年12月28日金曜日

平成三十年 秋興帖 第十(五島高資・青木百舌鳥・池田澄子・真矢ひろみ・井口時男・筑紫磐井)



五島高資
未完なる防潮堤や蚯蚓鳴く
登高や研修医指導研修会
日は海に面影の立つ出水かな
爪先にふれる水面や紅葉狩
石を積む月の光となりにけり


青木百舌鳥
ががいももあざみも絮の輝かし
秋灯の光背を負ひ陰を負ひ
寺町や寺にありたる紅の菊


池田澄子
古ぶなり風の花野のベンチと我
あの人に触れし風なれ十三夜
秋風や嗚呼とゆるんでゆく眉根
月天心さびしいひとよ落ちてくるな
濁り酒ゆすり未だに干さぬ奴


真矢ひろみ
黄落を川面に映し此岸とす
暁闇の漆紅葉の高貴かな
更けるほど天心ずらす紅葉径
ただ狂へ白膠木紅葉の囃しをり
影もたぬ帚木紅葉ありにけり


井口時男
道化の秋
道化師のはらわたよぢれ柘榴裂け
月に笑ふピエロ0(ゼロ)を累乗し
天高くアルレッキーノの宙返り
台風の眼に与太郎が舞ひ踊る
紅葉狩往きて還らぬ太郎冠者
月青く猪突の騎士に憂ひあり
秋風や王の道化の綱渡り


筑紫磐井
水と日の沸る露をく兜太の里
盆さまざまこの世に生れぬ魂も
  幸彦・義幸
十月の忌日重ねて我ら老ゆ

2018年12月21日金曜日

平成三十年 秋興帖 第九(小沢麻結・西村麒麟・大関のどか・水岩瞳)



小沢麻結
爽やかや火を吹きさうなビーフカレー
マスカット買ふ築地市場最終日
少しなら平気秋刀魚の腸旨し


西村麒麟
秋風を見てゐるやうな魚の目
くるくると回りて弱し草相撲
多摩川で火を焚いてゐるハロウィーン


大関のどか
ナイトサファリの犀犇めくや稲光
乗り出して口で迎える新走
柘榴割れ奇人の愛の真つしぐら


水岩瞳
湖の掬へぬあをさ蛇笏の忌
追伸へ深く秋思のまぎれ込む
秋灯下古典にはずれなかりけり
藁塚の背負つていたる落暉かな
道半ばされど我継ぐ秋の空

2018年12月14日金曜日

平成三十年 秋興帖 第八(依光正樹・依光陽子・浅沼 璞・佐藤りえ)



依光正樹(「クンツァイト」主宰)
川澄むと町に木賊を刈り収め
蜆蝶止まつて花になりたるか
川の近くに草が生え菊日和
よく晴れて綿取る日和あとわづか


依光陽子(「クンツァイト」)
秋扇を取り出だしたる径かな
澄む秋の胡桃の真下までは行く
残る虫ほどの荒びも松になし
いつも何か弾けて冬はすぐそこに


浅沼 璞
秋霖をふり返りたり鬼の面
樋傾ぐざざと濁れる野分晴
甘食のてつぺんかける野分後
キスチョコのつかみどころもなき秋思
胸焼けのソファーに沈む昼の虫
さんま三つ四つにきられて胴長よ
気をつけの姿勢つかのま天高し


佐藤りえ
秋冷のコットンシャツのくたくたに
バイト来て畳んでおりぬ海の家
台風来むねにラジオをつけさせて
狛犬の犬居にたふれゐたりけり

2018年12月7日金曜日

平成三十年 秋興帖 第七(飯田冬眞・望月士郎・中村猛虎・下坂速穂・岬光世)



飯田冬眞
眉寄せて銭の穴みる星月夜
鮭小屋の遠き海鳴り賽を振る
殉教の火を知る島の踊唄
むらさきは放浪の色葛の花
指回すとんぼの首の落つるまで
いつまでも指を折る癖鶏頭花
死ぬときは奥歯噛みしめ富有柿


望月士郎
投函の小鳥の名前をもう一度
忘却の日時計として案山子立つ
萩こぼれ文学館に死後の私語
銀漢や少女回転体となる
爪を切る音して月光のトルソー
秋思四角ときおり月の内接す
林檎剥くしずかに南回帰線


中村猛虎
棺桶の小窓の中の鰯雲
右利きの案山子が圧倒的多数
省略の効き過ぎている秋の水
桃を剥く背中にたくさんの釦
月天心胎児は逆さまに眠る
三合を過ぎて秋思の丸くなる
秋燕やシャッター商店街にTENGA


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
水澄みて亡くしたる鳥数知れず
どの色も揃へし羽の花野かな
舟と舟さ揺らぐ後の更衣


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
大鈴の古び小鈴のまろぶ秋
剃髪のこころや白き曼殊沙華
秋の木を降りて賢き雀かな