2019年3月29日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第三(飯田冬眞・辻村麻乃・夏木久・杉山久子)



飯田冬眞
パック酒くしゃりとつぶし初日の出
初筑波祈る角度は鋭角に
鼻歌の優しきうねり初御空
骨密度減りゆく母よなづな打つ
福耳を揺らす作務衣や喧嘩独楽
放浪の芙美子の庭に福寿草
たたかれて猛る火もありどんど焼


辻村麻乃
無骨なる若者鯛焼に並ぶ
色色な野菜の星や白シチュー
羽子板市邪鬼も悪鬼も叩かれず
歳晩や道で荷物を出す女
梳初や背後に誰かゐるやうな
幣揺るる工事現場の初茜
椅子の背にコート掛けたるサンルーム


夏木久
寄せて返す波打ち際の室内楽
  飛び乗りし夜行ソナタの淋しさよ
かみしものすけるかみしもすけるかみ
かくかくしかじかかみしものかみしたもゆる
はらきりしこおにたびらこほとけのざ
脳裡の月光ソナタより水の漏れ
ペン先に圧加はりぬ春の夜


杉山久子
初旅や左足よりはじめたる
牛日の既読スルーを眺めをり
何にでも「平成最後」餠伸びる

2019年3月22日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第二(仙田洋子・神谷 波・岸本尚毅・堀本 吟)



仙田洋子
社あるたびに拝みて明の春
ちちははもちちははを恋ひ雑煮かな
初鳩の噛みつきあつてゐるところ
何といふ鳥の足跡初渚
春着の子宝のごとく膝に乗せ
舞ふ獅子の口に突つ込むチョコレート
初大黒風に押されて詣でけり


神谷 波
泥のやうな眠りから覚め千代の春
無風快晴で始まる今年かな
大粒の赤子の涙初日受く
いつになく部屋がすつきり鏡餅
西暦より元号似合ふ鏡餅


岸本尚毅
今の世にポチといふ犬お元日
あたたかに猫に蚤ゐるお元日
我の云ふことに我のみ初笑
初笑腰巾着として笑ふ
お屋敷の裏の日陰の初鴉
初霞通天閣に子を泣かせ
初東風や田舎稲荷に供へもの


堀本 吟
除夜の鐘一打大本義幸哭く
     ・
凧生きてきましたこの死にざま
福寿草わが事なくて今日は過ぐ
七草や陛下もっとも人として
     ・
松過ぎの服脱いでみるリアリズム

2019年3月15日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第一(山本敏倖・曾根 毅・松下カロ・小野裕三)



山本敏倖(山河・豈)
初日の出ふつうの色に染まりけり
写らない父母と撮る初参り
伊勢海老の尻尾が有頂天を突く
けんか独楽刃向かいし者なびく者
鏡餅大器晩成型である


曾根 毅
元日を急ぐ信号機も影も
鹿威しより氷柱とも狂気とも
松の枝先雪嶺のざわざわと


松下カロ
わが恵方彼方に銀の埃立ち
うつくしき足指映り初鏡
真青である淋しさの松へ雪


小野裕三
寝る位置に高さそれぞれ寝正月
元朝の尻尾の殖えていたりけり
英米で英語の違い骨正月

2019年3月8日金曜日

平成三十年 冬興帖 第九(網野月を・小沢麻結・坂間恒子・佐藤りえ・筑紫磐井)



網野月を
冬日受く帝国ホテルのゴンドラ
増す光荒男の背に芝枯れる
頃合いに沢庵石を取り換えて
朝に晩に風呂上りにひび薬
冬休み自由であるを強制す
大寒や家鳴り下の方からも
手入れして魚眼広角春を待つ


小沢麻結
遠雷は再び呼ばず冬薔薇
銀行にかつて算盤膝毛布
鉄砲洲東百閒雪もよひ


坂間恒子
裸木にあまたの触手水かげろう
冬蝶に傷サンダカン作家死す
砲弾のごとくみがかれ冬の鯉


佐藤りえ
蒲団着てコスモロジーを読み耽る
枯園へ埋めた死体を確かめに
変拍子いよいよずれて冴ゆるかな
小石川二丁目汚すぼたん雪


筑紫磐井
焼芋を讃ふすべての税引後
知育・食育衰へて冬没日
開戦記念日よくなつてゆく痔のゆくへ

2019年3月1日金曜日

平成三十年 冬興帖 第八(真矢ひろみ・堀本 吟・内村恭子・青木百舌鳥)



真矢ひろみ
御講凪みな悪人にして笑顔
テロありし大路を渡る冬の月
煮凝りや液化せし魂見える化す
瞑りゐて三日とろろを泳ぎけり
箱庭にけもの道引く春隣


堀本 吟
日の射すや紅葉散る森ふかく行き
片時雨電話ボックスただ独り
そらいろに翳る皇帝ダリアの域
冬に咲くダリアも仮のあはれかな


内村恭子
二日はや川辺はアスリートばかり
氷壁を数歩穿ちてまた静寂
猟銃音ノイシュヴァンシュタイン城の朝
アイスホッケー防具外せば細き肩
無念の帰還とアノラック飾られて


青木百舌鳥
金剛の砥の粉にまみれ霜の舟
PRINCESS PRINCESS(プリプリ)は我になつかし公魚釣
道わたりくる公魚の釣師かな
生きてゐるものとは見えず暖め鳥