2019年4月26日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第七(ふけとしこ・井口時男・前北かおる・水岩瞳)



ふけとしこ
膝に笙休めて四日暮れにけり
人日や折鶴の息抜くことも
菓子箱の底の金色松も過ぎ


井口時男
雉一声枯野で年を越すつもり
ふるさとは神棚にぎはふ去年今年
あらたまの空蹴り上げて初ゴール


前北かおる(夏潮)
東京に初雪ありて旅に出づ
食卓に余白のありて粥柱
待春の十色に余る千羽鶴


水岩瞳
ふる里や初御空の碧いづくにも
箸二膳目を合はざすに御慶かな
書き込まれらしくなりけり初暦
読初や読み止しの本読み終わる
がらくた市胡散臭さを買初に

2019年4月19日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第六(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
めくりてもめくりても海初暦
初場所や江戸に大火のありしころ
親指の太く大きく初仕事


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
近況も知らずなりたる賀状かな
七日なり清白の丈つつましく
みやげ買ふ繭玉揺るる先なれば


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
去年のこと引き摺つてゐる春著かな
古きこといつまで好きや鳥総松
初場所や裏道ゆけど大通り
いろいろな社を踏みて寒詣


依光陽子(「クンツァイト」)
散らしたる蕾を鈴や初鋏
元朝のかほの映れる蛇口かな
塵芥のをどりまろびや初箒
鶏旦や群青強きねずみもち

2019年4月12日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第五(坂間恒子・田中葉月・木村オサム・乾 草川)



坂間恒子
もっと奧は樹氷林なり初詣
初夢やボタンがひとつ波打ち際
初夢に「地獄の門」のあらわれる
   

田中葉月
福寿草ほんの小さなでき事に
蓬莱やひこうき雲の広ごりて
転生の白いカラスが窓叩く
仏の座ほんのつまらぬものですが
裸木ややはり帰つていくんだね


木村オサム
遠い地球操縦席に鏡餅
福助を空へ向けたるお元日
おほかたは使われぬ脳寝正月
初景色猿がぽつんと土手に立つ
なんとなくいるだけのひと福寿草


乾 草川
なつかしや薺打ちゐる父の家
卒論は「出エジプト記」寒卵
パスカルが呼ぶから枯野越えてゆく
薄氷や子の好きだつた銀食器
煮凝りの闇「馬車道」へ「馬車道」へ
島の春小さな穴へ落ちぬよう
冬枯れや昼餉の箸をパキと割り

2019年4月5日金曜日

平成三十一年 歳旦帖 第四(小沢麻結・真矢ひろみ・浅沼 璞・渡邉美保)



小沢麻結
初詣心にかかりつつ病めり
初笑父奪はるるとも知らで
小豆粥待たずに父は逝きにけり


真矢ひろみ
福沸ケトルに映る鬼笑ひ
スマホみな閉じゆく音といふ淑気
箱庭に夜御降りは柵の外


浅沼 璞
《歳旦三つ物》
ゐのしゝの歳旦発句帖に候
 雑煮の餅もそこばくの汁
月咲きて花はのぼりて微笑みて


渡邉美保
お降りや月光菩薩の指の先
猫にツナ缶父にちょろぎの酒肴かな
人日のコーンスープのとろみかな