2019年6月28日金曜日

令和元年 春興帖 第六(内橋可奈子・福田将矢・とこうわらび・工藤惠)



内橋可奈子 (夜守派)
環状線乗り場を探す四月尽
桜蘂降る平成のバス降りる
板張が緩む五月が来たらしい
五月にもこんなにひとがいるなんて
蒲公英を弄る皆んながみてるのに
いさらいの片側を触る五月闇
粗筋も曖昧皐月躑躅吸う


福田将矢(夜守派、301)
轍跡蝌蚪干からびてひとつふたつ
掬われて人に飼われる蝌蚪となり
廃村に蝌蚪の犇めく水のあり


とこうわらび(夜守派)
十三大橋にのせて春分
真っ青うねる四次元のソーダ水
見下げるや月下美人はまだ枯れず
梅雨めいて赤信号のわめきたる
夏の陽に縫い付けられし椅子ひとつ


工藤惠(船団、夜守派)
初夏のトランペットを草原に
まっすぐに行けば東京聖五月
ぽかぽかと恋人なぐるさくらんぼ

2019年6月21日金曜日

令和元年 春興帖 第五(浅沼 璞・網野月を・堀本 吟・川嶋健佑)



浅沼 璞
一斉に目刺しなくなるカウンター
硝子戸をのぞいてぬけて春の風
このところ寝返りうてぬ涅槃かな
受付のあたりを花の散りぬるを
伊吹山横へと花のねぢれたる
布引の滝たらすなり春の宵


網野月を
いまの嬰は四頭身よ岩燕
一輪挿に活ける野の草春暑し
春陰の人地下鉄の出口から
薄荷タバコ貰って吸わぬ花曇
くじらの絵探して歩く残花かな
競い合う二人の婿や潮干狩
わたしにはかえるとこある若緑


堀本 吟
春風の見送りに来る令夫人
あのように拐って笑う夕桜
三月去るよくあることよくないことも
 二〇一九年三月六日暁 川柳家筒井祥文氏死。一句
畏友ともなれば戦死と言わん春嵐


川嶋健佑(夜守派)
春は名ばかりベッドの数が足りないぞ
このハサミななめに蝶を切り刻む
都市は箱おおきな桜活けておく
白魚の濁って遠い国でテロ
怒髪天突けば苺が暮れ泥む
黒揚羽ただ残像を置いてある

2019年6月14日金曜日

令和元年 春興帖 第四(前北かおる・坂間恒子)



前北かおる(夏潮)
春の蠅ぷいと失せたる日なたかな
春昼の千住あたりのガスタンク
お見合ひによき日楓の花の紅


坂間恒子
緑立つ令和の空気壜に詰め
松の芯「令和」墨書の払いかな
令和なり茹で筍を子に送る

2019年6月7日金曜日

令和元年 春興帖 第三(田中葉月・大井恒行・岸本尚毅・ふけとしこ)



田中葉月
桃色のわんこのお腹春深し
春陰のまた残りたるパンの耳
てふてふや湖面をわたる風になる
春の月どんぶらこつこどんぶらこ
押印のまたも傾く葱坊主


大井恒行
空・草木・海・風こだま連帯す
春北風の影となりたる鳥ばかり
山葵田の風こそ令和四月尽く


岸本尚毅
海霞むはるかに靴のやうな舟
春の日や下向く犬に石が照り
供華古び樒の花の咲いてをり
メーデーが来るビルに棲む老人に
カルデラや鶯鳴いて雲湧いて
カルデラの蝶々の今はるかなり
うつくしき母にもたれて日永の子


ふけとしこ
一坪で足りる商ひ遅日なる
熱々のドリアへ匙を花の雨
たんぽぽのうしろよ鬼の隠れしは