2019年10月25日金曜日

令和元年 花鳥篇 第十(水岩瞳・菊池洋勝・内橋可奈子・高橋美弥子・川嶋健佑)



水岩瞳
花種を蒔きて明日が信じらる
丸盆に干菓子なけれど新茶かな
強がつてみて雨ボート裏返す
中元はいつも花染め三輪素麺
ものごとの価値の変遷バナナかな


菊池洋勝
風青し背を向けている握り飯
自販機を開けたる鍵や風薫る
通院の予約の日かな青葉雨
下ろしたら戻せぬ箱や夏の初め
手習いの新元号や夏来る
紫陽花や会釈を返す対向車
絵日記の余る頁や夏休


内橋可奈子(夜守派)
今日を終え冷蔵庫から角砂糖
春はるよ張られて腹を触られて
蝶蝶はすてき保護者も来るけれど
それみんな放下してもうすぐ夏休
カキゴオリ刺さらぬ白い白い匙
犬と猫いっしょに走る万緑へ


高橋美弥子(夜守派)
朝ざくら一膳ほどの粥炊けり
褥瘡の軟膏匂ふ日のさくら
自傷痕の微熱あかあか桜散る
火取虫ネイルのラメの飛び散りぬ
夜間飛行フットレストの跣なり


川嶋健佑(つくえの部屋、夜守派)
万緑の牛を林道へと放つ
トンネルは滴るところどころから
絶望の底で蹴伸びをして泳ぐ
葡萄狩る八時を五分過ぎるごと
夜の秋の砂漠に自動販売機

2019年10月18日金曜日

令和元年 花鳥篇 第九(岬光世・依光正樹・依光陽子・辻村麻乃)



岬光世
くちなしや窓開けぬ家つづく道
子供下駄そろひし店へ鉄線花
姫女苑いつしか径を外れゐて


依光正樹
海鳥の立ち羽ばたきも春めいて
茅花あれば鳥も来るらむ海の音
立葵高き一花は反り返り
碧い風菖蒲の上を流れ出す


依光陽子
青柿に乾いてゐたる蛇口かな
両の手に面と鏡や夏蓬
夏蜜柑青き少年服が映え
木香薔薇洩れ日の中の吾やさし


辻村麻乃
曼珠沙華
朱き舌見せし蕾や彼岸花
すつくりと蕾揺れたる曼珠沙華
咲き頃に見放されをり曼珠沙華
次次と手指のごとく彼岸花
水引の赤となりたる曼珠沙華
彼岸花彼岸に咲きたる律儀さよ
ざはざはと曼珠沙華立ち上がる夜

2019年10月11日金曜日

令和元年 花鳥篇 第八(山本敏倖・堀本吟・仲寒蟬・下坂速穂)



山本敏倖
花の冷向こうの海を海にする
草木染の色の深さに椿落つ
まだせねばならぬことありふきのとう
令和かな蟻が巣をなす不発弾
芍薬や生かされているのだろうか


堀本吟
母の木を恋し恋しと落椿
沈丁花過敏な人の濡れティシュ
奥歯病む木瓜に棘あるとは知らず
インスタ映えというか肉片涼しそう


仲寒蟬
酒屋出て書店素通り夕桜
鷹鳩と化すや剃らるる髭鬚髯
チューリップ涙はすぐに溜まるもの
アネモネや苦手な女ほど近く
老鶯や未知の山河の奥へ奥へ
さびしくてまた鳴きに来るほととぎす
七賢の筍を焼くにほひとも


下坂速穂
何色が好きで岸辺に残る鴨
人逝きて水に蜻蛉生れたる
咲けばその木をまた愛す青野かな

2019年10月4日金曜日

令和元年 花鳥篇 第七(飯田冬眞・ふけとしこ・加藤知子・前北かおる)



飯田冬眞
水となる骨を納めに桃の花
表札は先代のまま蝦夷桜
羊の毛刈る牧童の青ッ洟
ぼうたんや崩るる音を秘め白し
螢籠まだみぬ吾子の魂連れて
老鶯や溶岩ラバを踏み行くカルデラ湖
郭公の声よおにぎりつぶれたり


ふけとしこ
ひよどりの巣のあるらしき庭に立ち
青柿や西の一間を墨客に
青蜂の取り合うてゐる韮の花


加藤知子
滴りて戦後生まれは甘く跳ぶ
沙羅落花夢は食べたか消えたのか
刺青着て二人称なり大暑なり
天気晴朗馬を冷やしにいくは誰


前北かおる(夏潮)
暗幕の裏地は緑風薫る
あぢさゐの頃のゆりのき通りかな
洗濯機三回分の五月晴