2019年11月29日金曜日

令和元年 夏興帖 第四/秋興帖 第四(仙田洋子・小野裕三・松下カロ・仲寒蟬・神谷波・杉山久子・木村オサム・坂間恒子)

【夏興帖】
仙田洋子
りんりんとベル鳴りにけり夏旺ん
おとろへし女にたかる藪蚊かな
草むしるたびに小さき蟻の湧き
   沖縄 四句
太陽のどつとふくらむ暑さかな
恋疲れしてはプールの底を見る
酒漬けの飯匙倩かつと口ひらきけり
星空に溺るるごとしハンモック


小野裕三
夏の人体空を飛ぶのも仕事です
海見えて「海」と声上げバス暑し
貴石売られゆくを眺める端居かな
悪魔には尖った尻尾夏の雨


松下カロ
噴水の向うに他郷ありにけり
レース編むマリーアントワネットの髪で
ひまはりと影を重ねて抱き合ふ


仲寒蟬
そんな人簡単服で会ふほどの
超新星爆発優曇華そよぎけり
真向ひに髭面座るところてん
青嵐山の向かうを子は知らず
食ふものも食はるるものも泉へと
蠅叩大凡人といふ境地
コンビニに列をなしたる祭足袋


【秋興帖】
神谷波
朝顔や瓜坊兄弟回れ右
青瓢夕陽が夕陽らしくなる
しんがりをあひつとめます法師蝉
留守番に芭蕉のさやぐ軒端かな
いつもどほり隣家に明かり十六夜
哀願調猫の鳴き声釣瓶落とし


杉山久子
関取の躰へ伸びる無数の手
銀杏を踏みし肉球匂ひけり
ライバルの菊をまづ見る品評会


木村オサム
短命の家系かまきり仁王立ち
脇腹のぜい肉つまむ蚯蚓鳴く
電磁波をしばし忘れて虫時雨
天高しジャブは打ったらすぐ戻す
平和とは桃の産毛を思ふこと


坂間恒子
秋刀魚の骨きれいにはずす外科医かな
漁港の秋原稿用紙燃え上がる
銀木犀その奧疾走オートバイ

2019年11月22日金曜日

令和元年 花鳥篇追補・夏興帖 第三・秋興帖 第三(北川美美・椿屋実梛・曾根 毅・ 辻村麻乃・小野裕三・仲寒蟬・山本敏倖)


【花鳥篇】
北川美美
うぐいすをさかしまにきくあさねかな
鳥骨を組み立ててゐる日永かな
港区に古墳ありけり羊歯萌ゆる


【夏興帖】
椿屋実梛
夏立つや異国の青き水の瓶
夏風邪や味覚どうやらおかしくて
風薫る京友禅のポーチより
Tシャツが風に膨らむデッキかな
仲夏なり眠気を誘ふ法律書
サマーセーター歯の白すぎる男かな
鉛筆を返しそびれし美術展


曾根 毅
眦を研ぎ澄ましたりくちなわよ
戦艦の胴に触れたる夏休み
客観の一つは影や百日紅


辻村麻乃
あめんぼの動けば光動きたる
花ダリア一つ一つの虚空かな
蜘蛛の囲を掻き分けてゐる調律師
隠れ沼や藻海老背筋伸ばしをり
零余子剥く爪半月の父に似て


【秋興帖】
小野裕三
枝豆を悲劇のように盛りにけり
三面鏡にひそむ終戦記念の日
降りやんだ雨の形で黄鶺鴒
話聞かぬ耳を並べて茸喰う
十一月をひとりで渡る綱渡り


仲寒蟬
ひぐらしの周り時間の濃くうすく
一歩目に蝗十跳ぶ二歩目に百
爆弾を持ちたる蜻蛉ゐはせぬか
陋巷に淫祠を見たり後の月
幾たびも案山子に道を訊く老婆
鉱脈のかたちに並ぶ曼殊沙華
仏弟子像声なく哭きぬさはやかに


山本敏倖
おるがんの五臓六腑が見える秋
唐辛子尖り過ぎて臍曲げる
風呼んで弦楽器めく秋の蜘蛛
きりぎりすもう譜面には戻れない
菊枕この幕間は酸っぱい

2019年11月15日金曜日

令和元年 夏興帖 第二・秋興帖 第二(夏木久・山本敏倖・望月士郎・曾根 毅・辻村麻乃・仙田洋子)



【夏興帖】
夏木久
この坂は上りか下りかはイソップ
向日葵に黒子或ひは空似とも
間違ひは偶々月の無人駅
膨大な夜の片隅の腕枕
星月夜死後より椅子は徐に
明易し夢からの電話待つてゐて
裏窓をさも嬉しげに飛ぶドローン


山本敏倖
10Bの金釘文字の暑さかな
六月の通奏低音あるかでぃあ
古代史の律令に穴紙魚走る
油蝉稲荷の裏の古代杉
水打って記憶の路地と路地繫ぐ


望月士郎
毛虫焼くときもしずかな薬指
うす塩の空蝉カウチポテト族
黙祷のくびすじ夏蝶のつまさき
八月六日ふりむく街のみな双子
空席にハンカチのあり広島忌


【秋興帖】
曾根 毅
露けしや苦しまぎれに抱きたる
紙おむつ穿き替えてから秋刀魚焼く
慰めにあらず日暮れの木守柿


辻村麻乃
駅前が海になりたる台風禍
二代目は無口な店主貴船菊
鰯雲遠き街より暮れなずむ
山は我我は山なる野分あと
頭からがぶりと秋刀魚喰らひたる


仙田洋子
トス高く上がりし空を秋燕
飛べさうもなき字の重さ蟿螽は
こほろぎの雌こほろぎの雄を踏み
   明治神宮 四句
おほかたは莟のままの菊花展
菊花展もう飽きてゐる男の子
奉納の菊や明治の世を思ふ
奉納の懸崖菊の古びざる

2019年11月8日金曜日

令和元年 花鳥篇追補・夏興帖 第一・秋興帖 第一(坂間恒子・飯田冬眞・大井恒行)

●夏興帖・秋興帖
【花鳥篇】が長びいているうちにすっかり晩秋となりました。応急の措置として、【夏興帖】と【秋興帖】を合わせて掲載することにさせて頂きます。これからお送りいただく方は、【夏興帖】又は【秋興帖】と書いて(もちろん両方出していただいて結構です)お送りください。掲載も、(【花鳥篇追補】と)【夏興帖】・【秋興帖】を併行して掲載させていただきます。
今後の予定としては、12月には【冬興帖】も開始し、季節に追いつきたいと思います。
「俳句新空間」第12号には、令和元年中の句をすべて上げたいものと思っております。
よろしくご協力ください。


【花鳥篇追補】
坂間恒子
鬱の日のうつにプールの匂いする
コンパスは兵士の遺品藤は実に
剥製の雉子の見つめる祭壇座


【夏興帖】
飯田冬眞
竹の花うつろなる節かさね咲く
胸中に星座を蔵し鹿の子百合
蛇苺イヴに見つかる前に踏む
革命は老人のもの青林檎
老眼に翠巒のひだ迫りくる
器とは窮屈なもの水羊羹
脱いでなほリュックの痕の汗を負ひ


【秋興帖】
大井恒行
自画像の涙さあれが風の秋
「あゝ」と泣き「嗚呼」と叫べる鸚鵡かな
私年号に「福徳元年」秋めく多摩
水引の赤を結びて移る風
わがうしろうばわれやすき風の秋

2019年11月1日金曜日

令和元年 花鳥篇 第十一(望月士郎・花尻万博・中村猛虎・青木百舌鳥・佐藤りえ・筑紫磐井)



望月士郎
ガラス器に根の国みてる春夕べ
朧夜のやがてやさしい鰓呼吸
はつなつのとてもきれいな永久歯
病棟に白い汀が潮まねき
なめくじのために一行開けておく


花尻万博
さよならは手長蝦に返しけり
お祈りの列に続いて見る蛍
筍を授かる小雨聞こえている
木の国の干ぜんまいと飛びゆけり
落ち合ふといふは賑やか藤の花
一升瓶光り光りて鹿の子に


中村猛虎
だるまさんが転んだ空に飛花落花
多動児の重心にある向日葵
亡骸を洗うガンジス紅黄草
ああ言えばこう言い返す通草かな


青木百舌鳥(夏潮)
枝渡る子猿を見をり若葉風
軽トラの白の清らか茶山ゆく
鯉のぼり鰻のぼりに鮎のぼりも
田を植ゑてそれを撮るとて坂駆くる


佐藤りえ
のどけしと眉間を揉んでゐるところ
ドラゴンとコモドドラゴン相見て花
草嗅いでむかし戦のあった場所


筑紫磐井
六道の盆歌なれどなつかしき
白日傘ダムに浮んだドラム缶
風殺し親を殺して炎暑来る