2020年4月24日金曜日

令和二年 春興帖 第六(ふけとしこ・渡邉美保・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)冬興帖/歳旦帖追補(北川美美)



ふけとしこ
先勝の朝や燕の来ることも
道行や花どきの花道をいざ
三鬼の忌ピンクッションを針が落ち


渡邉美保
さへづりの樹下接点のなき二人
小惑星に点灯夫ゐてあたたかし
味噌壺の味噌乾びけり春の雷


下坂速穂
誕生日までの一ト月青き踏む
たんぽぽや戦の足跡の上に
春光や水を湛へて星の病む


岬光世
早春の男同士の動物園
粗朶を折る音乾びたり遅き春
目の合ひし犬の吠えたる梅見かな


依光正樹
一園をうち鎮めたる梅花かな
日は遠く目白は近くふんだんに
三椏の黄色い蜜に誘はれて
華やかな気持がひそむ大試験


依光陽子
嫩草や秋は芒が丈隠し
みつまたの花に雨より早く着く
木が水を吸ひ上ぐる音の春を遊べ
漂鳥や振り向けば東京は花


【冬興帖】
北川美美
暖房の人感スイッチにて稼働
罪思ふ百合根の鱗外すとき
ホットワイン球体となる干葡萄(巨峰)

【歳旦帖】
北川美美
死ねば居ず地水火風か四方の春
嫁が君囲みて話聞きやらむ
嫁が君餅に上がりて脚白し

2020年4月17日金曜日

令和二年 春興帖 第五(内村恭子・早瀬恵子・渕上信子・真矢ひろみ・仲寒蟬)



内村恭子
踏青や道を聞かれてばかりゐる
邸宅の裏庭に入る鳥交る
春を待つ次の間飾る銀食器
生前のままの書斎や冴返る
春暖炉泰西名画一面に


早瀬恵子
血圧と脈拍99 66 77ゾロメ春立つ日
コロナウイルスVS東京大空襲忌
パンデミックさくらの女神号泣す
仏壇にお迎え祈る母の春
デュオや吹かれゆく蝶々と和毛


渕上信子
蛇穴を出てコロナつてなに
三月や無人の滑り台
ふらここの人たちまち寝落ち
春のマスクを洗つては干し
囀のつひにパンデミツク


真矢ひろみ
じゅん菜のぬめりぷちぷち甘露かな
禍々しきは菜の花の昏きより
煌めきを十把絡げぬ春の川
春一や暖色電球廻し点く
春愁ひゴルゴンゾーラを二三片


仲寒蟬
キャスターのピアス揺れをり今朝の春
流氷に乗つてどこぞの神が来る
ヒヤシンス顔洗ふ手に水鏡
徐々に声高紅梅派白梅派
初蝶の飛ぶといふよりただよひ来
先生のやけに小さく卒業式
なまじ音立ててさびしき風車

2020年4月10日金曜日

令和二年 春興帖 第四(前北かおる・神谷波・杉山久子・望月士郎)



前北かおる(夏潮)
影法師見ながら踊る春日かな
汽笛うららか羽田からどこへ飛ぶ
うららかや癒えて身体の絞れしと


神谷波
離れ座敷や溺愛の色の梅
誰からも相手にされず蕗のぢい
リュックおしやれコートもおしやれ風光る
三月十一日菜の花そよいでる
COVID-19荒れ狂ふ中開花


杉山久子
スケボーの板裏青し鳥雲に
確定申告終はる蝌蚪の紐伸びる
春暁やわが消化管さくら色


望月士郎
春満月この世に入口と出口
二枚セットの三角定規猫の恋
薄氷の奥にぼんやりと唇
花明り人みちあふれている無人
ど忘れのように父いる潮干潟

2020年4月3日金曜日

令和二年 春興帖 第三(堀本 吟・木村オサム・林雅樹)



堀本 吟
先生の提げて来られしシクラメン
紅色の品佳き花ぞ悟朗の忌
  ・・・・・
ももいろの耳たぶ弐つ豚饅頭シクラメン
流行風邪ウィルスが風の息する篝火草シクラメン


木村オサム
啓蟄の体温計がピッと鳴る
啓蟄やにっぽん木乃伊大図鑑
目覚めると首絞められた痕地虫出づ
啓蟄のちくわの穴を覗きをり
啓蟄や駄々こねやすき畳部屋


林雅樹(澤)
コロナ怖じて朝寝続ける女かな
ワンテンポ遅るゝダンス柳の芽
失踪せる友に会ひたり苗木市