2021年4月30日金曜日

令和三年 春興帖 第二(仲寒蟬・曾根毅・坂間恒子・岸本尚毅)



仲寒蟬
「ほ」と口を開くるかたちに梅の花
補助輪はづれ春風となりにけり
戦さなどやめて草餅でも食はう
たんぽぽの途切れしところ船着場
雲すこし混ぜて編まれし春帽子
ふらここや天より取つて来し楽譜
蠅生まる幻想交響曲の鐘


曾根毅
ガーベラをときどき眺め受験生
花粉症首から黄ばみはじめたる
花粉症受話器に耳を当てながら


坂間恒子
海桐の実手に切り傷のある景色
ほうぼうの尾鰭の戦ぎかの子の忌
大仏の背中がひらく惜春


岸本尚毅
春立ちし海や日暮に間のありて
子供泣く三人官女冷然と
なつかしき粉よ欠片よ雛あられ
春や昔の春ならぬ我が吹出物
埋もれてゐる団栗や地虫出づ
砂白く流れし跡や春の雨
磯巾着保育士は髪かきあげて

2021年4月23日金曜日

令和三年 春興帖 第一(のどか・大井恒行・夏木久)



のどか
寄居虫の手本地球の歩き方
太陽であったおみなよ花ミモザ
“ローランの美女“の吐息や霾晦
さくら餅付喪神なる皿へもり


大井恒行
陰卓というさびしき丘や春隣
軍旗また興亜を祈り花の森
幼年や焦土にありしかの牡丹


夏木久
淘汰して空誂えり紋白蝶
瘡蓋のように瓦礫をあっ菫
銭湯の富士へ太郎は旅立ちぬ
ヴィーナスを視線で縛り付け春宵
執拗に執事が春夜を叩き執着
サヨナラの切手を雨で霞草
墨蹟へ棹差すように花筏

2021年4月16日金曜日

令和三年 歳旦帖 第十二(井口時男・五島高資・佐藤りえ・筑紫磐井)



井口時男
去年今年ゴヤの巨人の一跨ぎ
黒い絵の部屋にみゝしひ去年今年
雪嶺はるか後退り行くわが帰郷
雪嶺かゞやくこの現し世へようこそ
マスクの下のカイゼル髭や信田妻
ナルシスの指わなゝくや寒卵
春寒やメールの言葉やゝ尖り


五島高資
若水を赤秀と分かつ島根かな
初富士の穢土を憂ひて空にあり
立ち返る年の孔雀の助走かな
蓬萊や浦に翁の隠れたる
雲間より天見ヶ浦の淑気かな


佐藤りえ
パパイヤの木にパパイヤの初明り
初御空ひむがしへ行くおほみあし
 悼 北川美美
虎と龍従へ空つ風に乗れ


筑紫磐井
年の鐘ひびかぬ夜を迎へけり
人間ひとのゐぬ草木世界春や嘉し
「今年逝った人々」が溢れてゐる

2021年4月9日金曜日

令和三年 歳旦帖 第十一(中村猛虎・小野裕三・飯田冬眞)



中村猛虎
初詣やっぱり僕は日本の子
トーストの飛び出し損ね女正月
テーブルにイヌの骨壷年の暮れ
金箔のこぼれて加賀の祝箸
ウーバーイーツの銀輪光る年の暮
リセットすスマートフォンの初神籤


小野裕三
棒読みのような書き初め飾るかな
ストリップ劇場にある宝船
手毬唄町より橋の大きかり


飯田冬眞
鉄塔の奥に初富士構へたる
へその緒の函に金文字初雀
ともに来てばらばらに去る嫁が君

2021年4月2日金曜日

令和二年 冬興帖 第十(早瀬恵子・家登みろく・佐藤りえ・筑紫磐井)



早瀬恵子
 追悼句
虹のかなたに美美さんのバスケット


家登みろく
極月や行く人なべて荷を運ぶ
枯葉吹き入るや飯屋に客入る度
鯛焼きの背ビレの硬さ友を待つ
濡れたやう寒夜の新のアスファルト
白鳥の離れふたたび水黒む


佐藤りえ
葱の字の心あやふくたうとけれ
犀抱くちひさな牛や冬銀河
雪踏の背中明るく暗く立つ


筑紫磐井
  眠る兜太
異形畸型の詩を生んだひと二月尽
狼星張りこんでゐて犯罪つみ未だし
我が視野を白き邪魔者時々殺意