2022年10月28日金曜日

令和四年 夏興帖 第五(瀬戸優理子・浅沼 璞・関根誠子)



瀬戸優理子
リラの風整列拒む詩のことば
人見知り泡もてあそぶ天使魚
人形の臍の穴押す夕涼み
首強く突っ込む夏シャツの青年
十薬や我に残れる根暗の根


浅沼 璞
カルミアの一つ一つに目が入る
猫背にて健康サンダル健康です
サンダルのなき勝手口風ぬけて
三角形ばかりで山小屋を作る
山小屋の節穴の目を動かしぬ
夕焼を呼び上げにけり立行司
笹飾り吹かれて右へ右へかな


関根誠子
若葉風わたしイルカになつてゐる
刈り跡を鋭くめぐり夏の蝶
里山やゆつくり蝿に留まらるる
夏至南風(カーチーベー)沖縄はオキナワを忘れない
弁当売りにやつと日影のめぐり来し

2022年10月21日金曜日

令和四年 夏興帖 第四(小沢麻結・小野裕三・曾根 毅・岸本尚毅)



小沢麻結
打水や濡れていきいき足の指
揚羽蝶見返す暇に見失ふ
ぐんと寄る峰雲初めての乗馬


小野裕三
傷心に虹と名づける選択肢
靴多き体操教師午睡かな
ゼリーとゼリー運ばれてくる食堂車
麻服を着て見殺しにしていたり
誰もかも歯並びのよき浴衣かな
観音に立ち姿ある雲の峰
噴水を待つ間のオーデコロンかな


曾根 毅
瀧迅し我の時間と異なれり
蛇苺人間の皮垂れ始め
肖像画青葉の闇に委ねられ


岸本尚毅
海光ることさへ暑き港かな
冷房のロビーに浮輪提げて待つ
戦隊のレツドを名乗る日焼の子
昼のことふとなつかしき夜釣かな
手で落す夏の落葉や作り滝
草のやうに薔薇が咲きをり避暑の日々
裏山に仙人草やうなぎ焼く

2022年10月14日金曜日

令和四年 夏興帖 第三(ふけとしこ・なつはづき・小林かんな・神谷 波)



ふけとしこ
陵の草を刈らんと舟を出す
首筋へ蝉声寺の屋根が反り
山号は知らず涼風いただきぬ


なつはづき
蟷螂生る強運奪いあうように
姫女苑飛ぶには小さ過ぎる風
運び屋の帰りを待っている金魚
ハイビスカス現地時間であれば恋
すいかずらそっと引っ張る男運
チアガールのえくぼに夏の陽が溜まる
ずかずかと猫に踏まれる暑気中り


小林かんな
蒼朮を焚くくれないの蔵書印
ほととぎす人の子供も食べさせて
日日草地蔵の目鼻石に溶け
はも祭屏風の中に川小さし
コンチキチン昂ぶりのまま髪洗う


神谷 波
きまぐれな雨にざわつく青芭蕉
好きな言葉「明日」やまももシャーベット
強烈な日差し毅然と咲く蘇鉄
明易し狐にサンダル偸まれて
砲弾が飛び交ひ向日葵咲き乱れ

2022年10月7日金曜日

令和四年 夏興帖 第二(池田澄子・加藤知子・杉山久子・坂間恒子・田中葉月)



池田澄子
橡咲いていて茫然と空厚し
伸べし手をウフッとよけたでしょ揚羽
日本は初夏テレビにきらきら焼夷弾
真夜を猛暑のテレビニュースに文句あり
八月十五日テレビを点けっぱなし
夏百夜とどくとはかぎらないことば


加藤知子
毛のものはうんちのにおいみなみ風
夕立の初めの匂い忘れつつ
アイス棒舐めてしゃぶりて優柔不断
夏のはてあと何日自力排泄か
花デイゴ落ちて出会えるひとと落つ
なんでそんなこと言うのと夜の秋立ちぬ


杉山久子
草原となりしみづうみ星涼し
黒黴を殺す手立てを検索す
どん亀と呼ばれて昼寝より覚めぬ


坂間恒子
夕顔の微熱の闇に水を遣る
自販機の群生船虫の磁力
白木槿古代微笑の交わらず
さるすべり鏡に微熱あるような
仏の間戦ぐ音する青芒
山鳩の鳴けば晩夏のうす濁り
ヨット消えつややかなりし椿山


田中葉月
天道虫補陀洛へおすなおすな
青栗のしきりに落つる七七日
端居してアンダルシアの風の中
吸つて吐くただそれだけか月下美人
蟻の列それより先は異界なる