2025年2月28日金曜日

令和六年 夏興帖 第十一(浅沼 璞・筑紫磐井・佐藤りえ)



浅沼 璞
くちばしを屋根で拭へる聖五月
カルミヤに吸はれ続けてゐる休日
 大山海『はにま通信』を読みて
古墳への道 緑さす出会かな
大いなる蝸牛を頭頂に這はす
蚊の声すジョルジョ・デ・キリコのマヌカンに
晩年のかなぶんの短編を書く
人間が人間とのむビールかな


筑紫磐井
金魚盥に金魚がをらぬ超現実
大いなる乳房吸ひ付く端居かな
夏の壁厚く刑務所入るすべなし


佐藤りえ
出目のない賽のやうなる日も涼し
夏立つともろ肌脱ぎのぬいぐるみ
差し入れた腕が戻らぬ五月闇

2025年2月14日金曜日

令和六年 秋興帖 第十(小沢麻結・林雅樹)



小沢麻結
雨に酔ひ風に酔ひ酔芙蓉かな
秋蝶の翅重ね風やり過ごし
杉の香の失せぬ間に酌め新走り


林雅樹
乳見せて笑ふ老婆やななかまど
庭掘れば出づる人骨ななかまど
よく出来て案山子やネルのシャツ着たる