2020年1月31日金曜日

令和元年 冬興帖 第五/令和二年 歳旦帖 第四(仲寒蟬・小野裕三・渡邉美保・望月士郎・飯田冬眞・早瀬恵子・浅沼 璞・渕上信子・松下カロ・加藤知子・関悦史)

【冬興帖】

仲寒蟬
冬耕や是より東武田領
焼藷屋魔人のごとく湯気の中
海苔焙る手の皺と海苔交互に見る
阿吽なるあくびとくさめひと部屋に
山襞のやけにくつきり室の花
小春日や母の繰り言ひたすら聞く
討入の日の錆びつきし蝶番


小野裕三
エジソンの瞳の青き文化の日
飼いならすように寒紅引きにけり
先回りして狐火に囁けり
それぞれに前のめりなる聖歌隊
牛飼いと牛飼いの子の聖夜かな


渡邉美保
極月やメタセコイアの金茶降る
遅刻者の火事を見てきし貌であり
子狐の灯す狐火仄白く


望月士郎
月凍てて少女水銀体温計
ふっと風花そっと帰り花きっと
柩の窓こんなにきれい寒銀河
行きすぎて平目を買って戻りすぎ
白息の白犬がゆく年の果て


飯田冬眞
神の留守漏刻の夜の狂ひ出す
かさぶたの色持つ廃車冬夕焼
茶の花や寝所をともす灯の低く
夕暮は風の要塞枇杷の花
冬の鵙銀鼠の空かきむしる
打消しで始まる人と根深汁
冬の月流沙河に詩の崩れゆく


早瀬恵子
雪だるまワンツー天下の園デビュー
アカペラのドッペルカノンにペチカ燃ゆ
大年のウィンク・ウィン明日また


【歳旦帖】


浅沼 璞
天井は嫁が君かやかたかたと
  ころがる棒へさす初茜
花と月あまねく描く筆致にて


渕上信子
嫁が君研究棟の夜
徹夜明なる初日眩しき
差し入れ嬉し喰積にハム
挨拶するや春着の秘書と
破魔矢ぶらさげ友の来訪
年賀のメール豪州は夏
D論仕上げ人日の空


松下カロ
ホフマンスタール黒豆煮えるまで
冬薔薇リルケ寡黙で貧血で
オクタビオ・パス新年はフリーパス


望月士郎
魂をひとつてんてん手毬かな
ちょうろぎは雪兎には使わない
はらからの集いはららご食べている


加藤知子
初夢の女体掘り出す土器須恵器
塩抜きの足りぬ数の子ピノコのP
参考に頬の赤らむ寒の菊


関悦史
初日さす糞尿五輪の税責めの
や読初西村寿行『滅びの笛』
アストルフォを語られてをり初電話
元日の国道の辺の供花を見たり
「男の娘かるた」全画像拾ふ二日かな
五十億年先の初日を待ちながら

2020年1月24日金曜日

令和元年 冬興帖 第四/令和二年 歳旦帖 第三(岸本尚毅・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・竹岡一郎・妹尾健太郎・坂間恒子・大井恒行・仙田洋子・山本敏倖・堀本 吟)

【冬興帖】
岸本尚毅
団栗と蜷と見分けて冬の水
ひつぱられ今川焼は湯気漏らす
玉子酒なまぐさければなぐさまず
数へ日や昼のカラオケ野に聞こえ
永久に留守冬の風鈴ぶら下げて
風よりも小鳥に揺れて枯るるもの


下坂速穂
コンビニの人とは話すマスクかな
猫に髯人に髭あり根深汁
冬の木に人に未完の物語


岬光世
狭き路地狭くかたづけお酉さま
足首の若きを廻し日向ぼこ
立ちしまま枯野の中に水を飲む


依光正樹
冬ざれを行けば秋桜子と波郷
朝ごとの露に親しき帰り花
淋しくもなくて独りの帰り花
あとついて歩くてふこと耳袋


依光陽子
水鳥のこころ水なき街をゆき
刈萱の枯れて谷中の咖喱店
小春日やなんぼでもよしと値つけて
翌る年ひらく莟よ冬構


竹岡一郎
木菟の羽搏きに護符搔き分くる
狩る我は水鏡にも映らない
大き胃を割けば熊あり半ば溶け
僧形や霜置く牙を踏みしめて
大鷲や目玉くわへて聖山へ
黒帝が声無き口を開き切る
熊の掌を煮て弦月は三日月に


妹尾健太郎
時空間もつ湯湯婆の内と外
火事場から場を移したら馬鹿力
九重の天守の上の冬菫
温恩怨をんなの音を雪女
片手鍋より煮凝り滑り出す宇宙


【歳旦帖】
坂間恒子
数え日のロダンの首を思いけり
黒ジャージの少年かたまる大晦日
羊飼いの少年初夢はひつじ


大井恒行
嫁が君つぼうちねんてんアンパンマン
われ子年ねんてんは猿アンパンマン
初日かな知恵ある鳥を慰まず


仙田洋子
いそいそと羽子板市をひとめぐり
朝より羽子板市のよく濡るる
遊び女の売らるる如し羽子板市
吉徳の小さき店や年の市
柚子風呂の匂ひどの家からとなく
新玉やくろがねの如隅田川
東の空をまづ見て二日かな


山本敏倖
水平の世を水平に除夜の鐘
大年や水の器を用意する
広島への道のりにあるお雑煮
人類の戦なき世を読初む
嫁が君次の客間で婚の声


堀本 吟
子ねずみの初齧りかな宇宙卵
家猫をいじり窮鼠と気づかせぬ
駆けおりてゆくバベルの塔鼠算
かがようて篝火草のまたひらく
ヒヤシンス耳奥に声のとどくまで

2020年1月17日金曜日

令和元年 冬興帖 第三/令和二年 歳旦帖 第二(網野月を・大井恒行・神谷 波・花尻万博・近江文代・なつはづき・林雅樹・曾根 毅・池田澄子)


【冬興帖】

網野月を
どこからがいやどこまでが冬の空
冬の薔薇名の無い毒を潜ませて
霜柱狭い歩幅の大足跡
橋は名を残して霜の遊歩道
マフラーを持て余してる夜店の子
冬の海ないものがある神童忌
バックミラーに絡み付いてる冬の蝶


大井恒行
死後もはるかに木々に雪あり山や海
五明後日ごあさってはるばる痩せる冬落暉
花鳥風月おかんなぎまためかんなぎ


神谷 波
裏山にそつと近づく冬三日月
名古屋まで往復切符小春日和
おにぎり買ふ小春日和の名古屋駅
かならず買ふものに束子年の暮
ほっとけないわ数え日の空模様


花尻万博
狼の優し狼知らぬ波に
狼映つてたか小さな小さなテレビ
磯漁の一族として餅搗ける
始まりも途中もあらぬ餅配
鯨割く潮の流れ歌う者らよ
鯨老うなかれ記紀の終はるまで


近江文代
片方の顔が綺麗な落葉焚
忘却の彼方を鶴の凍てており
ピアノごと沈む絨毯ふるさとは
わたくしの男にマスクかけてやる
白鳥の王様になるまで叫ぶ
 

なつはづき
夜の底をまさぐるように兎罠
開戦日衣ばかりの海老天麩羅
凍鶴やうなじが知っている言葉
西遊記の結末知らず冬山河
寒林や耳が時間を食い潰す
冬霧を裂いてはだかの眼でふたり
ブレーキの利かぬ思い出毛布干す


林雅樹(澤)
キスすれば離るゝ頬や冬銀河
日曜の工員寮や花八つ手
巨大なる麺麭工場や銀杏散る
そはそはと動く鸚鵡や日記果つ
腹芸の百面相や年忘れ


【歳旦帖】

曾根 毅
海光の鳥から人に流れけり
春寒し情事のような箸一対
円形に日の射している書斎かな


池田澄子
することのなくもがな去年今年かな
見つめたり喉のぞいたり初鏡
赤ん坊へ変な声出し松の内
初春と思えば初春の遺影
永久に在れ雪の故郷の箱階段

令和元年 秋興帖 第八(小林かんな・加藤知子・網野月を・早瀬恵子・中村猛虎・のどか・近江文代・佐藤りえ・筑紫磐井)



小林かんな
前を行く人のリュックの秋日かな
弁当を河原の上に解く照葉
竿で押す紅葉の映る川の底
乗ってすぐ降りる渡船や石叩き
紅葉山滝はいくどか折れながら
     

加藤知子
りんご剥くごと金属探知機の触る
塹壕の深堀林檎湿らせる
唇を切り獣の笛の音楽会
腐りかけのりんご断面見せて舞え
林檎端正に置かれてもはや林檎じゃない


網野月を
爪先で食べ尽くさんと柿落葉
立ち上がる海原睨む石蕗の花
白菜や名無き料理をアルマイト
眠れない呪禁の夢を花八手
欅紅葉地獄にしても温過ぎる
初霜や小鳥のように生きてみる
高くはないが深い空堀返り花


早瀬恵子
秋夕べ新書解体オークション
白秋や恋する本のらんらんと
月明り片口に盛る天女舞


中村猛虎
子規の忌の三角関数溢れ出す
攫われる肩車の子十三夜
カトマンズに人焼く匂い夜長し
亡骸を洗うガンジス紅黄草
鶏頭花方位磁石は黄泉を指す
男根を祀る神社に色鳥来


のどか
黒鍵のエチュード転び色鳥来
御陵を守る鍵穴鵙猛る
霜降や綾取り糸の忘れ物
母と生きる火宅を抜けて桃を剥く(三世火宅)


近江文代
書き順を間違え曼殊沙華一本
散骨の忽ち小鳥来るならば
猫きっと来るコスモスは束となり
入りゆく団地の子供茸山
今生は囮にされる鳥になる
  

佐藤りえ
コスモスや向こう側からも犬が来る
鵙も来よ株式会社月世界
霧の電柱幽霊船の帆と見ゆる
古書店の百均台や夜長く


筑紫磐井
山姥の旦暮あけくれといふ紅葉あり
醍醐味は智山・豊山の紅葉など
数列の視界を秋の蝶が舞っふ
たつたいま見殺しにして秋の蟬
花野とは子供ひとりが消える場所

2020年1月10日金曜日

令和元年 冬興帖 第二/令和二年 歳旦帖 第一(小林かんな・池田澄子・辻村麻乃・内村恭子・中村猛虎・夏木久)

明けましておめでとうございます。
昨年から、俳句帖の掲載ペースが落ちており、出来るだけ季節感と合わせるために、複数の季節を同時掲載することとしました。現在夏興帖は終わり、秋興帖と冬興帖の掲載が進んでいますが、まだ当分同時掲載が続くと思います。このような中で恐縮ですが、歳旦帖を開始させていただきます。
このため、掲載が遅れている方、また掲載にあたり秋と冬の掲載の順番が変わっている方から問い合わせを頂いています。BLOG参加者にはご迷惑をおかけいたしますがご宥恕ください。

筑紫磐井


【冬興帖】
小林かんな
太陽の塔へ冬日のモノレール
着ぶくれて亜細亜の百の仮面の前
死者包む装束の紐冬の蝶
小春日のサバニの上に魚籠と櫂
ゆりかごも呪術の品も藁仕事


池田澄子
冬ざくら谷へこぼるるしずけさよ
凍月夜しずかになさい紙袋
膝掛毛布催眠剤を飲むか否か
寒き夜のひとりのお茶の濃すぎたる
雪の気配うしみつどきを寝そびれて


辻村麻乃
鐘島に波の鳴りたる冬夕焼
航跡波うねりてきたる鰤起し
路地裏の路地を迷いて冬花火
一艘の呑まれゆきたる冬紅葉
長瀞に石の積まれて冬うらら
燦燦と擬宝珠に冬陽跳ねゐたる
虚無と云ふ鬼の底這ふ十二月


内村恭子
雪の高野手に手に幣を携へて
寒暁や僧の手が撒く紙の蓮
勤行に凍つる手合はす夜明かな
手を組みて宇宙は遥か息白し
胼の手で修行の僧が運ぶ膳


中村猛虎
唇を這わせて進む大枯野
懐手袂に触るる龍角散
冬の稲妻撃ち抜け心臓はここだ
食パンに入れる刃の音冬に入る
枯野人明日履くための靴磨く
悴んでいても今夜も生きている


夏木久
小春日へ箸落としましたねあなた
歓談をしつつお昼を雪達磨
非難甘受冬へ脚立を立てかけて
裏窓や朝日の当たる駅その他
出口だと?そいつは冬の入口だ
金継や偶に傷口べろつと舐め
さうだらう南瓜の返事はNOだらう


【歳旦帖】
辻村麻乃
おでんから引いては足して銀の匙
冬花火上がりで山の定まりぬ
五千頭の龍冬天を睨みをり
足裏より凍突き上ぐる大伽藍
礫岩層十指に余る初御空

令和元年 秋興帖 第七(渡邉美保・真矢ひろみ・竹岡一郎・前北かおる・小沢麻結・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・仙田洋子・渕上信子・水岩瞳)



渡邉美保
ローズマリーの花に月光降りてくる
鶏頭の種集まってくる夕べ
小蜜柑草の実の色づきも豊の秋


真矢ひろみ
異界への予鈴はそぞろ鉦叩
若衆のうなじに解夏の風まとも
夕ひぐらしわかってくれない生きづらい
涅槃図の余白秋水溢れをり
我が膝に乗る蟋蟀の方違え


竹岡一郎
雁瘡が聖の顔となりて説く
鯖雲を嗅ぐとき鼻孔大いなる
蝗積む踏切前の佃煮屋
瓢箪を吊るは非情の日射し溜む
木犀の夜や詰襟を喪ひし
幽かにも門扉よ鹿に導かれ
虫しぐれとくと月球燻しけり


前北かおる(夏潮)
大いなる嵐の過ぎし小鳥かな
露草に嵐の痕のあたらしく
野分よりこのかた滝の音絶えて


小沢麻結
シテはけふ人待つ女秋澄めり
秋風や覚えなき人より封書
魂迎ふ海岸通り一丁目


下坂速穂
ふたりしてきのふも見たる月を見て
似て非なる黄色の花と女郎花
人懐つこく蜻蛉の来ることも


岬光世
爽籟や正座の長き剣道着
二輪車を丹念に拭き秋高し
秋の径雨はしづかに唐突に


依光正樹
むらさきのものをまとひて施餓鬼棚
秋の蝉遠く感じてものを書き
吉日を殊に気にして生身魂
ゴム跳びのころの思ひ出秋風に


依光陽子
台風を兆す小雨や東京湾
秋麗や時間を言ふに秒までも
夕かけて鉦叩鳴くほとりかな
紅葉且つ散る音を追ふ色を追ふ


仙田洋子
鳥居にもぺこりとお辞儀七五三
玉砂利を摑みて投げて七五三
千歳飴さげてだらだら歩きの子
天蓋の如き神木神の留守
冬座敷浄土の如く山光り
独逸語に疲れ鍋焼饂飩でも
くらきへと狐火の流るるやうに


渕上信子
鈍感力で凌ぐ八月
酔ひて歌ひてあッ流れ星
彼岸といへどこの銀河系
豚のソテーにてんじやうまもり
後悔しつつ木賊刈りをり
もみぢ山「火気厳禁」の札
門燈ふいに点く蟲の道


水岩瞳
カンナ燃ゆ丘に砲台かつてあり
蟻を見る子ども見てゐる九月かな
いづれの御時にかあきめく授業かな
メンテナンスせずにもう秋人恋し
満月や二重否定は肯定す