2017年8月25日金曜日

【花鳥篇特別版】金原まさ子さん追善(秦夕美・佐藤りえ・筑紫磐井)/花鳥篇 第九(五島高資)



秦夕美
絵はがきの文字思ひをり梅雨の星



佐藤りえ
鶏頭の裳裾ひるがへして遊行



筑紫磐井
穏やかな晩年はなし叩けば蚊




花鳥篇 第九(五島高資)

五島高資
蛇口から水のふくらむ二月かな
雛の間を川は夕べへ流れけり
日の本の日やみちのくの春の海
朝へ出る道のうねりや竹の秋
水を送るのみの橋あり春の雨
爪先を回してゐたり春の闇
田水張る高天原のけむりかな

2017年8月18日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第八(網野月を・佐藤りえ・望月士郎・筑紫磐井・近江文代)



網野月を
忍冬今宵の予定メールせり
通し鴨四十の娘未だいかず
光秀は首を捜して草いきれ
夏の海コンツァーボトル握り締め
半夏生嫁は妊娠六ケ月
本当かよ何とか言えよ道おしえ
鱆って魚なんだ後退り出来ない


佐藤りえ
くづほれてさなぎのやうな稲荷寿司
生存に許可が要る気がする五月
中空に浮いたままでも大丈夫
ノンブルはページにひとつ日雷
早乙女の乙女にあらぬをとめかな


望月士郎
人形の目は貝ボタン海市立つ
花過ぎの駅に鱗のない魚
字足らずのようなほほえみ尺取虫
聖五月病院バラ科の窓口へ
取り返しのつかないことをしたい茄子


筑紫磐井
北川に会う約束が大夕立
追加する鮎の皿出て客はなし
小乗も金剛乗も虚子の夏行
美の争乱・美の共謀も螢の夜
新小岩に蚊がゐて何となく不倫


近江文代
向日葵に夫の知らない声を出す
夏海の深さよ拘束の手首
夏野原指を繋いで踏み砕く
夕焼けてきて女体曲線ばかり

2017年8月11日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第七(中村猛虎・真矢ひろみ・水岩 瞳・青木百舌鳥)



中村猛虎
アリバイは春の朧に濡れている
テトラポットの底に溜まっている春眠
蒲公英の絮役職定年の日
蛍狩無量大数の彼方へ
蝸牛シーソー這えば戦争始まる
海亀の泣きて人間廃業す
淋しさと気楽の隙間海月浮く

【紹介文・近況】
1961年生まれ。20代後半、会社の同僚であった林誠司氏(現 月間俳句界編集長)の誘いで「河」増成栗人先生の指導を受け、俳句を始める。2005年、故郷兵庫県姫路市で、商工会議所若手経営者をメンバーとし、俳句勉強会 句会亜流里(あるさと)立ち上げ。姫路市内には、芭蕉の遺品の蓑笠が遺っており、これらが収められていた、今は無き増位山随願寺風羅堂を再建するための播磨芭蕉忌フェスティバル(本年11回目)の開催、小中学校への出前俳句講座、など活動中。2010年、風羅堂焼失後、69年間空席であった、芭蕉翁を第1世とする風羅第12世を継ぐ。昨年、一昨年と2年連続で、NHKeテレの「俳句王国がゆく」に出演、夏井いつき氏の毒舌と絡み、俳句よりしゃべくりで会場を沸かせた。ロマネコンテ所属・現代俳句協会会員


真矢ひろみ
県道にミミズのたうつ電波の日
一魂を結ぶ海市を非在とす
業なるべし紫陽花を秋色にして
緑陰を出で逆夢に折り返す
文学は下駄履かぬもの重信忌

【紹介文・近況】
地方(愛媛)在住 男性。まず英語HAIKUに携わり、その後、俳句と関わる。以来30年弱。性、至極怠惰にして、狷介固陋なる俳句環境に遊びかつ自閉するきらいあり。楽しいものの意義無いものと自省。


水岩 瞳
散る桜ほんね言はぬも愛のうち
こどもの頃を思ひ出す日やこどもの日
その手順こそが共謀夏の闇


青木百舌鳥(夏潮)
斑雪嶺を打つ日も消えて本降りに
村上や松の咲きたる吊し鮭
左肘張つて田植機発進す
田植機の赤そのほかも懐古的
急峻にして筍の乱杭に

2017年8月4日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第六(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
目の横に耳の穴あり羽抜鳥
短夜の鳥ほうと啼くかうと啼く
夏蝶の見せては隠す模様かな


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
石楠花のあはひを登りゆきにけり
応へをる夏鶯や杖に鈴
遠き世の遠きへ帰る朴の花


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
町鳥は町に遊んで梅雨曇
藁屋根の深く沈んで鳥の夏
葉の水が揺れてゐるとき蓮の花


依光陽子(「クンツァイト」)
青柿や浅草に来て空を見て
眼涼し羽ばたくものを捉へては
笊菊は笊と育てん縮かな