2019年9月13日金曜日

令和元年 花鳥篇 第四(浅沼 璞・小野裕三・真矢ひろみ)



浅沼 璞
ねむたげなまなこ降りくる花あふち
緑さすポニーテールの輪ゴムかな


小野裕三(海原・豆の木)
春の星集めて飼育するごとし
紫陽花の潔さにて聴くバッハ
向日葵に攻められ音楽室は空っぽ


真矢ひろみ
春の水海となりその夢となる
箱庭の音だけすなる大花火
丹波太郎眉太き嬢よく笑ふ
若衆のあをき美白や晩夏光
鉄線花断ち切るほどの縁なく

2019年9月6日金曜日

令和元年 花鳥篇 第三(小林かんな・早瀬恵子・木村オサム)



小林かんな
夏霧に捺す漢委奴国王
将軍の一字拝領額の花
字の中に草国尸山滴る
夕虹や偏と旁がめぐり合い
金文を器に鋳込み夏の星


早瀬恵子
クリムトのラディカルにくる金の夏
忘れられ油団ゆとんの床のゆかしかり
花形の和事・荒事・令和三伏


木村オサム
全身の鈍痛のごと蟇蛙
黙秘する男の前の金魚鉢
天上の瀬音満ちたる蝉の殻
目撃者ごとに異なる蛇の丈
女太夫の隣の鬼火月見草

2019年8月30日金曜日

令和元年 花鳥篇 第二(杉山久子・渕上信子・夏木久)



杉山久子
白髪の美しき遺影や鳥雲に
木漏れ日の記憶匂へる夏帽子
終電に空ける予祝の缶ビール


渕上信子
老いうぐひすの物狂めき
蟻にあなたに雨の休日
兜太論茹小豆甘すぎ
被爆ピアノを聴く熱帯夜
夏帽子振向くや別人
夜食のあとの指舐めて「さて!」
歩み出す厄日の団子虫


夏木久
炎昼を影の干乾びゆくボレロ
顔役になれず朝顔朝茶漬
峰雲の麓総州九十九里
雨脚が伸びて曼陀羅図の小火へ
器より銀河へしずく水の星
向日葵の所属七三一部隊
王子さま忌の夜の飛行機雲へ

2019年8月23日金曜日

令和元年 花鳥篇 第一(神谷 波・曾根 毅・松下カロ)



神谷 波
手が空いて炭酸水とバラの風
あとはよろしくとばかり鳴くほととぎす
消灯や狂つたやうに香るカサブランカ
ヘリの爆音のうぜんの花ぽとぽと


曾根 毅
裁かれることなく老いぬ白牡丹
灰色の夜は人肌の桜蘂
薄き翅仕舞いきれずに天道虫


松下カロ
石ひとつ抱いて帰りぬ昼寝覚
おほかたは倒れてゐたるかきつばた
蝉しぐれ青年は喉焼きつくし

2019年8月16日金曜日

令和元年 春興帖 第十三(筑紫磐井)



筑紫磐井
陽炎の天にちぎれて野に遊べ
立春のゴジラのやうに山かたち
Boy meets girl 繰り返しつつ春嵐
クーパーの字幕に浮ぶ春愁ひ
唱名逐鳥不買は蜜の味がする

  *〈唱名逐鳥〉は『東国歳時記』にある農村行事。

2019年8月9日金曜日

令和元年 春興帖 第十二(依光陽子・小沢麻結・近江文代・佐藤りえ)



依光陽子(「クンツァイト」)
八重桜空を見やうとして空は
死せる木を叩けば蝶のつぎつぎ来
藤の花まるめて仕舞ふ羽織もの
白石の覘く荒磯や夏隣


小沢麻結
にじり寄る田螺の先の田螺かな
田螺鳴く泥に窶せる濡れ羽色
この度の恋は実らず嗚呼田螺


近江文代
火を焚いて男の腕よ春の雪
目薬の一瞬鶴の帰ること
鳥の恋はがき一枚なぜ書けぬ
両親の部屋の鍵穴春休み
桃の花管に血液ゆき渡る


佐藤りえ
たなごころ綺麗な菩薩春の雪
春や車内にスマートフォンの落ちる音
桃の闇に橋かかりをる遅日かな

2019年8月2日金曜日

令和元年 春興帖 第十一(西村麒麟・下坂速穂・岬光世・依光正樹)



西村麒麟
眠さうな中学校の桜かな
野球部の遠投を見る桜かな
紫のジャージの人が耕すや
先生の忌日に吹かん鶯笛
稀に出す手紙の返事春愁ひ


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
囀や今はしづかな祟り神
残る子と貰はれてゆく子猫かな
髪長き男が春を寒さうに


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
漁りの指を離れぬ春の潮
菜の花や浜には浜の屋台来て
かたはらの子は砂を掘り春の沖


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
門の中からしやぼん玉吹いてゐる
海風が出て春光が照りつけて
磯遊びビルばかり見し吾にうれし
草餅や潮の香りもどこからか