2022年7月22日金曜日

令和四年 花鳥篇 第二(杉山久子・ふけとしこ・岸本尚毅・花尻万博)



杉山久子
かぷかぷと鯉の口来る芒種かな
魚偏だらけの湯呑み走り梅雨
更衣へて雨音ひびく躰かな


ふけとしこ
一つ葉の崖より鳥の弾け飛び
河骨が咲いて睡魔が立つてゐて
河骨の水に鉄気の差す処
源三位頼政の忌や鮠の群れ
ソーダ水むかしが青く近づきぬ


岸本尚毅
摘草やましらの如く手の長く
蟇のせて蟇泳ぎをりつるむなり
花ゆふべダフ屋大きな眼の男
墓買へと電話の男昭和の日
浮人形あはれ税込二百円
青芝や茸淋しく生えてをり
夕立の傘の絵柄の西瓜など


花尻万博
蜥蜴泳ぐいつかの尾を尻に接ぎ
短夜の影に魚ある嬉しさよ
言の葉を思ふ誘蛾灯光るたび
夜に釣るフィリピン大きく火を立てて
蛍火を吸ひこむフォークダンスかな
焦げてゆくあやめの中の産毛かな
木苺落ちてゆくわたくしの底にまで

2022年7月15日金曜日

令和四年 花鳥篇 第一(仙田洋子・山本敏倖・坂間恒子・辻村麻乃)



仙田洋子
藤波が藤波を呼ぶ昼下がり
潮風にこぞりて傾ぐ松の芯
墨堤に座して草餅桜餅
金継のウェッジウッド春深し
とんとんとけふも生きのび雀の子
行く春や駅の手書きの時刻表
炒飯の焦げ目くつきり夏近し


山本敏倖
陰暦に遠近つけるいそぎんちゃく
そう言えばあじさいは複眼である
空蝉や組香薄く残りおり
かっこうの蝦夷訛りを私す
真昼間を垂直にする蜘蛛の糸


坂間恒子
烏瓜の花流謫に似しおもい
山奥の宿の白蛾を追い詰める
少年らの聖歌合唱ほたる飛ぶ
寂しさの真ん中に渦太宰の忌
足裏の湿疹あざやか薔薇繁殖
大仏の背中がひらく夏つばめ
夢のなかまで十薬の花追いかける


辻村麻乃
しやがみこむ人人人の汐干かな
汗の子の目を丸くしてマンボウ来
楽屋出て雨の気配や金亀虫
夏大根頷くだけの夫と食ぶ
雷一閃海の底ひを見しと云ふ
電線の撓むビル間の夕薄暑
老鶯の仕切りに鳴きて湾明くる

2022年7月1日金曜日

令和四年 春興帖 第十(佐藤りえ・筑紫磐井)



佐藤りえ
遠蛙誰か帰つてくる夜道
雛形にうつかり名字書いてある
跳び箱の頭に座りうららけし


筑紫磐井
天地創造の翌日蝌蚪ぐもり
能村登四郎が作りし季語や櫻しべ
暗黒のカーネーションを母に賜ふ