2024年1月26日金曜日

令和五年 夏興帖 第十一(豊里友行・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



豊里友行
恐竜が吼え出す酷暑の地下鉄
旅人とおもう魚群の青葉闇
砂浴び雀の東京群像よ
ガーベラの一輪挿しの日本晴れ
とてもちいさな祭囃子の蕾
とりあえず浜松町の鰻重よ
雲海は神の食卓そらの旅


下坂速穂
人去りて葉音ばかりの夏館
紫陽花や手紙のやうに本を開き
変はらぬ町のどこかが変はり冷し汁
下駄でも買うて帰りたき西日かな


岬光世
夏野への手動扉を開け広ぐ
見上ぐれば知りたるかほの夏の草
青き嶺雲に遅れて吾も行く


依光正樹
声がはりしたる不思議に夏の海
花鉢にいくつも出会ふ日傘かな
子の通ふ公園を見に夜の秋
ゆふがたの匂ひのしたる潮干狩


依光陽子
蜥蜴ゐる石のしづかを思ひけり
いつぽんの線で鳴きけり牛蛙
るりしじみ秋へ秋へと誘ふは
夏の水町のいろいろ映しつつ

2024年1月12日金曜日

令和五年 夏興帖 第十(水岩 瞳・佐藤りえ・筑紫磐井)



水岩 瞳
この更地何がありしや街薄暑
じいばあの涙忘れそ沖縄忌
語り部の語らざること原爆忌
兵ひとり死んでも異常なしの朱夏
この新刊いつか古典に麦の秋


佐藤りえ
弾込めの指細からむ単帯
歩くより浮くのが早い水遊び
鳥立つて群れてゐるのも端居哉


筑紫磐井
お揃ひの夏帽子なりあかの他人
小諸にて虚子をたたへる夏講座
硝子戸の向こうに夏の海がある