2023年11月17日金曜日

令和五年 夏興帖 第六(小沢麻結・浅沼 璞・望月士郎・曾根 毅)



小沢麻結
男振りなり飛魚の流線形
海酸漿鳴らしたく浜去りがたく
黒塗りの車止まりぬ鮎の宿


浅沼 璞
歓声のかすかに届く夏座敷
絵簾のはためいてゐる不在かな
隙間から笑ひ返してくる裸
蟻の巣に群がるかゆみ上腕に
壁一面苔ぎりぎりに車体かな
兜虫うごくを素手でもち帰る
噴水の奥で懺悔をしてゐたり


望月士郎
にんげんの流れるプール昼の月
心臓は四部屋リビングに金魚
はんざきのまなうら飛行船がくる
火取虫あの世の片隅にこの世
転生の途中夜店をかいま見る


曾根 毅
どうしても傾いてくる冷房車
血管の浮き上がりたる青葉山
花菖蒲脚の先から消えかかり

2023年11月10日金曜日

令和五年 夏興帖 第五(神谷波・松下カロ・加藤知子)



神谷波
夕涼し川辺の杭にいつもの鳥
山々の輪郭ぼやけたる暑さ
地球沸騰宣言中の青田
枕辺の時計正確明易し
 

松下カロ
乗り換への多い切符の青海月
先をゆく少年の丈まくなぎほど
雲水の指のきれいな蝸牛


加藤知子
梅雨寒やロダンの男鼻をかむ
戦争に捕まっていくまいまい
獣肌が夕焼けるから戦争が
踊り子を物色ドガの箱庭へ
カノンロック少女白雨(ゆうだち)感電す

2023年11月3日金曜日

令和五年 夏興帖 第四(岸本尚毅・小林かんな・瀬戸優理子)



岸本尚毅
梅雨深し水に映れる蜘蛛の糸
その墓の涼しく町の音遠く
野の百合が見えて大きな墓の百合
夏の雲何の煙突かは忘れ
町角に神を説きをり凌霄花
山の宿蠅少なくて大きくて
堀に蓮咲いて城主は佐竹様


小林かんな
父の日の保険会社のタオル干す
蛇見る子見ない子土手にもつれ合う
夏の雲金管楽器待機する
日焼して山羊を迎えにゆくところ
昼寝して声を忘れてきた子ども


瀬戸優理子
没頭の時計のゆがみ濃紫陽花
われわれを試すパセリの露悪趣味
絶交の青いハンカチ借りたまま
汗を拭き拭きいい人になるノルマ
ソーダフロート宇宙の話まで飛んで