2025年5月23日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第三(辻村麻乃・瀬戸優理子)



辻村麻乃
三人の同時に開くる初御籤
初社一気に投ぐる厄割玉
初茜蜃吐きたる氣の中に
引潮の鳥居金具に淑気満つ
自らが乗る夢見たり宝船
わつと来てわつと去りたるお正月
咲上がる梅の花こそ町意なる
びきびきと泡立つものや春の池
啓蟄や人に言へざることをして
留守居せし部屋の女雛のよく笑ふ


瀬戸優理子
初暦この一年という長編
淑気満つ一句のための紙の白
朗らかな原稿依頼五日かな
春の雪けものの水場甘くなる
春塵の薔薇窓ペインクリニック

2025年5月9日金曜日

令和七年 歳旦帖・春興帖 第二(ふけとしこ・加藤知子・杉山久子・小野裕三)



ふけとしこ
あらたまの出窓に壜の蒼透けて
年新た琉球硝子のデカンタも
正月の火棚の端にのぞくもの
     ・
芹を摘む渡りの沼といふ水辺
切株に斜めの裂け目春霰
春闌けて地下に大きな舞妓の絵


加藤知子
日の丸を立てぬ酸っぱさお元日
矢の淑気玉依姫の妊活は
寝正月キソウテンガイと化す流れ
人日のパソコン夫が消えた椅子
矢面はマリアの青衣春隣
心筋の狂れて小躍り二月尽
白梅の真白きにごり乳溢れ
啓蟄や渡台の父のロマンとは
停戦の合意決裂花粉症
無条件降伏なんかたんかよたか


杉山久子
七種粥吹き令和はや七年目
鳥帰るみな俯ける列車内
春の川渡りて友の来る日あり


小野裕三
早見表の隅々までも淑気かな
白い目も黒い目もある初芝居
数学的素養羨ましき雨水
魂を抜く仕草にてぶらんこ揺らす
雪割草僕はあなたの指がほしい
日本の音のきらきら遍路道
正解のように湖沈丁花