岬光世新大いなる枯野を曳きし杖を置く
新寒晴に縁の錆びたる書を掲げ
新水仙の昼を遠のく荒磯かな
依光正樹新抜け出して先頭の人息白し
新待たされて待たされし身の息白し
新火のやうに子の遊びたる暮れ早し
新冬の朝職人の手が打ちはじめ
依光陽子新小春日の雪駄つつかけ築地まで
新柿好きの柿なき庭の冬ざるる
新ジャンパーや撥ねたる髪が鳥に似て
新野をゆけど歌ふことなし冬の鵙
岸本尚毅新二三日小春日続く男かな
新文机や冬あたたかに白き紙
新首細き褞袍の人の猫を抱く
新老人のゐて水仙の香かな
新焼鳥を食ひホルモンを侮れる
新春を待つ渋谷いつしか古き町
新釣堀に映る手や顔春近し
木村オサム新泣き顔の隠れる深さ冬帽子
新塀越しに白菜放り込むじじい
新大枯野木魚の音の家が建つ
【秋興帖】
中村猛虎新角道をあけて台風を通す
新原爆忌ハーゲンダッツの昏き赤
新跳ね返る射的のコルク星祭
新歌麿の描く女陰より曼珠沙華
新十三夜君をドライフラワーに
新村人の他は背高泡立草