2025年6月21日土曜日

令和六年 冬興帖 第五/秋興帖 補遺(岬光世・依光正樹・依光陽子・岸本尚毅・木村オサム・中村猛虎)

【冬興帖】

岬光世
新大いなる枯野を曳きし杖を置く
新寒晴に縁の錆びたる書を掲げ
新水仙の昼を遠のく荒磯かな


依光正樹
新抜け出して先頭の人息白し
新待たされて待たされし身の息白し
新火のやうに子の遊びたる暮れ早し
新冬の朝職人の手が打ちはじめ


依光陽子
新小春日の雪駄つつかけ築地まで
新柿好きの柿なき庭の冬ざるる
新ジャンパーや撥ねたる髪が鳥に似て
新野をゆけど歌ふことなし冬の鵙


岸本尚毅
新二三日小春日続く男かな
新文机や冬あたたかに白き紙
新首細き褞袍の人の猫を抱く
新老人のゐて水仙の香かな
新焼鳥を食ひホルモンを侮れる
新春を待つ渋谷いつしか古き町
新釣堀に映る手や顔春近し


木村オサム
新泣き顔の隠れる深さ冬帽子
新塀越しに白菜放り込むじじい
新大枯野木魚の音の家が建つ


【秋興帖】

中村猛虎
新角道をあけて台風を通す
新原爆忌ハーゲンダッツの昏き赤
新跳ね返る射的のコルク星祭
新歌麿の描く女陰より曼珠沙華
新十三夜君をドライフラワーに
新村人の他は背高泡立草