2015年9月4日金曜日

平成二十七年夏興帖 第八 (真矢ひろみ・神谷波・渡邉美保・西村麒麟・飯田冬眞・近江文代)




真矢ひろみ
意味に飽く少年少女夏の果
白シャツの深く息する美白かな
成長す入道雲のあやふやに



神谷波
天網の弛みに弛む暑さかな
積み込むは離婚の荷らし百日紅
夜な夜なの守宮に声を掛けてやる



渡邉美保
船涼し鯨の形の島を過ぎ
八本の足のもつるる夏の蛸
海難の無縁墓古る百日紅
海光に浮かぶ獅子島夏の果



西村麒麟
阿の口が息を吸ひたる昼寝かな
玫瑰やまづ輪になつてストレッチ
夏野行くオープンカーの調子良し
行く夏を惜しみつつ食ふ光りもの
寝るまでを楽しんでゐる夏布団



飯田冬眞(「豈」「未来図」)
パセリ食む酔ひ覚めの顔突き合はせ
ついばみし命の数を羽抜鳥
夏座敷枝毛気にする姪の指
あめんぼう転々と居を移し行く
泡吐かぬ方の金魚に名をつけて



近江文代
海水着秘所はしづかに濡れ残り
炎昼の女は影を鋭くす
噴水のはたと止みをる世の終り
生産をしない体に夏の月
肉声の限りを尽くし夏終る