2017年4月28日金曜日

平成二十九年 春興帖 第二 (杉山久子・曾根 毅・堀本 吟)



杉山久子
少年の喉のあかるしヒヤシンス
風船の体育館を出でゆきぬ
行く春や怠けてをらぬナマケモノ

曾根 毅
話すたび気息を漏らし花菜畑
木の芽時爪先に血の行き渡り
太股の近きに生まれゆすらうめ


堀本 吟 
桜前線「天皇国」と称ふるあり
花喰鳥さかさになって花ついばむ
ゆーらしあふあんふあんのつちふれり
たんぽぽや「ぽ」のゆくすえはしあわせか    
ブラックホールに手足が生えて蛙の子



平成二十九年 歳旦帖 追補 ( 恩田侑布子) 



恩田侑布子
駿河湾身ぶるひしたる初日かな
恵方道なる茶畑の畔
囀に白いズックの紐締めて

2017年4月21日金曜日

平成二十九年 春興帖 第一 (加藤知子・田中葉月・花尻万博)



加藤知子
アポロンの鼻うた春のあまだれよ
恍惚の頭蓋骨から春キャベツ
春闇を左巻きにて生まれけり
絵踏みかな首から下の捌きおり


田中葉月
春光を集め片足フラミンゴ
貝寄風や天使の羽音拾ひゆく
天国のファックス届く風信子
さくら咲く一本道の生命線
事実はたいてい嫌なもの鳥雲に
陽炎やふりかへらない君がいて


花尻万博
褶曲の時を繋げて暖かし
奥処には柱寝かせて山椿
褶曲や甘さのありし囀りに
早くから立てる土筆に夢多し
み仏の歩みを止めず山椿
湯の速く過ぎて蕨の香なりけり

2017年4月16日日曜日

平成二十九年 歳旦帖 第九 (大井恒行・筑紫磐井・北川美美)


大井恒行
機はじめ手繰りて雲のあけぼのす
恋の矢の一度かすみて射しくる陽
初日ゆがんで羽化するしじま


筑紫磐井
明治神宮からましぐらな初鴉
男系はおろかならずや女正月
アニミズムの近刊を読み蟄啓く
三月はいろいろなこと昭和秘史


北川美美
正月の大きな毬が一つ家に
尻みせて散りゆく雀
ため息や煙のやうに歌留多飛ぶ



2017年4月8日土曜日

平成二十九年 歳旦帖 第八 (岸本尚毅・浅沼 璞・佐藤りえ・田中葉月)


岸本尚毅
元日だうでもよくて落葉を蹴る子かな
底ひまで見えて海ある初御空
初凪やペンキと雲の白と白
出初式窓に見えをり小鳥に餌
伸子すこし古風な名前初句会
野良犬を見て初旅の続くなり
やる気なささうに馬ゐる馬場始



浅沼 璞
歳旦 三つ物 
還暦の貫禄もがな鏡餅
 ロッケンロールとぞ花の春
朧夜をとぼとぼ雪の降りかかり


佐藤りえ
歳旦 三つ物
淑気満つチーズフォンデュの面かな
 賀客はいずれ髭の四五人
春鹿も土間も日向に濡れるらむ

かまくらに時間外用小窓あり
逆剥けの新巻鮭が湯の中に
猫が跨ぐプラスチックの鏡餅
シェルターに雑煮の湯気の立つばかり