2017年8月18日金曜日

平成二十九年 花鳥篇 第八(網野月を・佐藤りえ・望月士郎・筑紫磐井・近江文代)



網野月を
忍冬今宵の予定メールせり
通し鴨四十の娘未だいかず
光秀は首を捜して草いきれ
夏の海コンツァーボトル握り締め
半夏生嫁は妊娠六ケ月
本当かよ何とか言えよ道おしえ
鱆って魚なんだ後退り出来ない


佐藤りえ
くづほれてさなぎのやうな稲荷寿司
生存に許可が要る気がする五月
中空に浮いたままでも大丈夫
ノンブルはページにひとつ日雷
早乙女の乙女にあらぬをとめかな


望月士郎
人形の目は貝ボタン海市立つ
花過ぎの駅に鱗のない魚
字足らずのようなほほえみ尺取虫
聖五月病院バラ科の窓口へ
取り返しのつかないことをしたい茄子


筑紫磐井
北川に会う約束が大夕立
追加する鮎の皿出て客はなし
小乗も金剛乗も虚子の夏行
美の争乱・美の共謀も螢の夜
新小岩に蚊がゐて何となく不倫


近江文代
向日葵に夫の知らない声を出す
夏海の深さよ拘束の手首
夏野原指を繋いで踏み砕く
夕焼けてきて女体曲線ばかり