仙田洋子藤波が藤波を呼ぶ昼下がり
潮風にこぞりて傾ぐ松の芯
墨堤に座して草餅桜餅
金継のウェッジウッド春深し
とんとんとけふも生きのび雀の子
行く春や駅の手書きの時刻表
炒飯の焦げ目くつきり夏近し
山本敏倖陰暦に遠近つけるいそぎんちゃく
そう言えばあじさいは複眼である
空蝉や組香薄く残りおり
かっこうの蝦夷訛りを私す
真昼間を垂直にする蜘蛛の糸
坂間恒子烏瓜の花流謫に似しおもい
山奥の宿の白蛾を追い詰める
少年らの聖歌合唱ほたる飛ぶ
寂しさの真ん中に渦太宰の忌
足裏の湿疹あざやか薔薇繁殖
大仏の背中がひらく夏つばめ
夢のなかまで十薬の花追いかける
辻村麻乃しやがみこむ人人人の汐干かな
汗の子の目を丸くしてマンボウ来
楽屋出て雨の気配や金亀虫
夏大根頷くだけの夫と食ぶ
雷一閃海の底ひを見しと云ふ
電線の撓むビル間の夕薄暑
老鶯の仕切りに鳴きて湾明くる