2024年4月12日金曜日

令和五年 秋興帖 第七/冬興帖 第六(花尻万博・眞矢ひろみ・なつはづき・五島高資・辻村麻乃・網野月を・渡邉美保・望月士郎)

【秋興帖】

花尻万博
囮あり人といふもの集まりゆく
鉄橋と繋がっている栗の木々
自然薯や幾人埋めし紀の山に
最果ての見えると聞きて柘榴頂く
小鳥網透けて野の空四方あり


眞矢ひろみ
月明に波あり夢殿押し開く
生死不二鈴虫はそう哭いている
老いゆくや銀河のわたる心字池
虚仮の世に月下の象として歩む
神迎大きな耳の族が来る


なつはづき
敗戦日蕎麦猪口に蕎麦へばりつく
空耳はわたしの余白桃熟れる
コスモスや薄い背中で無視をする
鈴虫に混じる合鍵捨てる音
檸檬噛む栞を挟みたくない日
人感ライトいちいち光る文化の日
影錆びて釣瓶落しのパレスチナ


五島高資
透く風の時代や色を変へぬ松
龍灯やスンダランドの浮き上がる
月の射す魔術書にある朱筆かな
月草の帰りそびれて咲きにけり
いなびかり硯の海の深さかな


【冬興帖】

辻村麻乃
立冬や歯科医の指のぬるりとす
凩や自転車二台寄り合へり
尾長鴨ぴゆういと鳴きて人去れり
小夜時雨音の垂れては川となる
綿虫を飛ばして見せる友の指
包帯を昔の傷に巻きて冬
冬日向大切さうに犬抱ふ


網野月を
日和中じゃぶじゃぶ池の番鴨
義央忌雪は氷雨に冬桜
落葉籠サンタクロースのやうに負ふ
数へ日や読売新聞販売促進員
冬晴を石のかたちに愉しめる
バッチグーは死語であるかも夕みぞれ
茶を淹れた妻へ蜜柑を転がして


渡邉美保
侘助や首筋ふいに重くなる
暖房のよくきいてゐて待たされて
水仙のもの思うさま横向いて


望月士郎
あまてらす顔をうずめて干蒲団
白息と綿虫まざりわたしたち
小雪降る老いごころとは旅ごころ
雪のあね雪のいもうと雪うさぎ
さよならの「さ」からゆっくりと氷柱