羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
古代蓮十四五本は深眠り
化粧パックに隈取りの柄仏法僧
夕暮れの四隅あいまい青蜥蜴
関悦史
飛ぶカナブン追ひゆく食欲の雀
閉ぢられて超自我となる扇かな
イスカンダルの海を思へば涼しからん
瀬越悠矢
号令に級長の癖さるすべり
前衛に定めありなむ浮いてこい
夏旺んなり革命に詩のあれば
前北かおる(「夏潮」)
雲の影取り払はれて夏野かな
日おもてを歩む鴉や夏野原
火の粉振り撒きて子の泣く夏野かな
小沢麻結
栗の花散らばつてゐる夜明かな
夕立やざくざく駆くるスニーカー
はたた神甲斐の旅客を睥睨す
仲田陽子
ステンドグラス越しの福音蝉時雨
空蝉を集めるごとき安息日
涼しさや切り落とされしパンの耳
ピクルスの種を抜かれし穴に夏
百日紅眠りたりない日曜日
月野ぽぽな(「海程」同人)
炎天の重心ずれる旅鞄
近道は細道ゆうやけの匂い
ひとしずくまたひとしずく蛍の火
近恵(こんけい「炎環」「豆の木」)
何度でも手花火戦後民主主義
蝉の翅伸び夢見るという病
夕焼けの始まりは水の音して
飯田冬眞(「豈」「未来図」)
噛み合はぬ藤村論や日の盛り
鮎釣の水を漕ぎくる八重歯かな
虚子庵をかがみて訪へりつづれさせ
筑紫磐井
修羅越えて来し鮎ばかり千曲川
骨牌(こっぱい)のダイヤ・クラブと避暑地かな
羅鈿語で神父告(の)らるる朝涼し
虚子はまた大文学か小諸暑し
まむし恐ろし阿字真言の山に棲み
夕立に自由自在な小学生
長嶺千晶
ことごとく穂は直立の暑さかな
高原を統ぶるごとくに白日傘
岩あれば流紋を成し鮎の影
中西夕紀
懐古園二句
かき氷互ひの名前忘れゐて
シャツの血はわが血なりけり蚊をはがす
真楽寺三句
この池の水は田畑へ鐘涼し
こがねむし塔に木陰の刻来たり
蛇となる後生も佳かり鐘涼し
仲寒蟬
西のとんぼ東のとんぼ行き交へる
ハクサンフウロさつきの山が霧の中
ここはもう下界の一部さるすべり
峰雲の中に峰ある昏さかな
蝉もまた荒き山国樹々に風
濡れてゐぬところなどなし水遊び
空襲を知らぬ空より蝉の尿
青木百舌鳥
指さしてゐる爪ほどの青蛙
草の道鮎の川へとはひりけり
口縁のちんまり凹み燕の子
花日傘に蹤いて添ひゆく黒日傘
錦鯉なりに急発進も出来
深爪の指でトマトの熟れ具合を
老鶯の応答を待つも少し待つ
北川美美
夕立の中へどんどん入つていく
夕立の後しばらくを喫茶店
置石の確かに濡れて夕立後
川音の激しきところ鮎の里
小諸来てじんじん来たる暑さかな
湯殿にて「初恋」を読む汗をかく
飛び急ぐ浅間の夕を夏燕
関根誠子 (寒雷・炎環・つうの会・や)
肩凝りも旅荷のひとつ青葉行
夏帽子空腹組の遅れ出す
草川の卯の花曇り釣人も
炎天の裾と思ひて穴掘つて
蝉の殻友達ならばなれたのに
小林苑を
荒梅雨や下北沢のきのふけふ
水無月の三面鏡に首を入れ
三人のおぢさん一人はアロハシャツ
網野月を
右巻きを左へ燃える蚊遣香
蝸牛走り出しても直ぐ止まる
格好悪い形状記憶夏帽子
冷酒をそれを過失と言うなれば
人だけど人間じゃない土用の芽
ホームレスのブルーシートへ守宮ドサッ
危険!さわるな!粘暑獄暑
堀田季何(澤)
安全保障七句
にせものの猫脚なれば蟻のぼる
なかんづく伏魔殿めく蟻の塔
暗黒の宮殿捨つや若き蟻
暗黒の関東平野を蟻の無為
塚見えて働く蟻に戻りけり
つぎつぎに蟻踏んでゆく前の人
蟻避けて歩行補助杖つく速さ
浅沼璞
白蚊帳に透けて動かぬ高島田
花魁の素足ひらける袋綴ぢ
蟻右往汝左往して愛しけれ
中空の金魚の面の小癪なる
風情やや番頭めける梅雨鯰
がゝんぼや鍵を驚く牢腐し
昼寝覚あの世の嘘を裏声で
水岩瞳
忠霊塔のそばの馬魂碑五月闇
少年にアメリカの匂ひ夜のプール
たばしるや赤子の尿も喜雨の中
只ならぬ世に男の子裸の子
兵士死んで国の誉れとなる明日