2015年8月8日土曜日

平成二十七年夏興帖 第五 (関根誠子・小林苑を・網野月を・堀田季何・浅沼璞・水岩瞳)



関根誠子 (寒雷・炎環・つうの会・や)
肩凝りも旅荷のひとつ青葉行
夏帽子空腹組の遅れ出す
草川の卯の花曇り釣人も
炎天の裾と思ひて穴掘つて
蝉の殻友達ならばなれたのに



小林苑を
荒梅雨や下北沢のきのふけふ
水無月の三面鏡に首を入れ
三人のおぢさん一人はアロハシャツ



網野月を
右巻きを左へ燃える蚊遣香
蝸牛走り出しても直ぐ止まる
格好悪い形状記憶夏帽子
冷酒をそれを過失と言うなれば
人だけど人間じゃない土用の芽
ホームレスのブルーシートへ守宮ドサッ
危険!さわるな!粘暑獄暑




堀田季何(澤)
安全保障七句
にせものの猫脚なれば蟻のぼる
なかんづく伏魔殿めく蟻の塔
暗黒の宮殿捨つや若き蟻
暗黒の関東平野を蟻の無為
塚見えて働く蟻に戻りけり
つぎつぎに蟻踏んでゆく前の人
蟻避けて歩行補助杖つく速さ



浅沼璞
白蚊帳に透けて動かぬ高島田
花魁の素足ひらける袋綴ぢ
蟻右往汝左往して愛しけれ
中空の金魚の面の小癪なる
風情やや番頭めける梅雨鯰
がゝんぼや鍵を驚く牢腐し
昼寝覚あの世の嘘を裏声で



水岩瞳
忠霊塔のそばの馬魂碑五月闇
少年にアメリカの匂ひ夜のプール
たばしるや赤子の尿も喜雨の中
只ならぬ世に男の子裸の子
兵士死んで国の誉れとなる明日