筑紫磐井修羅越えて来し鮎ばかり千曲川
骨牌(こっぱい)のダイヤ・クラブと避暑地かな
羅鈿語で神父告(の)らるる朝涼し
虚子はまた大文学か小諸暑し
まむし恐ろし阿字真言の山に棲み
夕立に自由自在な小学生
長嶺千晶ことごとく穂は直立の暑さかな
高原を統ぶるごとくに白日傘
岩あれば流紋を成し鮎の影
中西夕紀
懐古園二句かき氷互ひの名前忘れゐて
シャツの血はわが血なりけり蚊をはがす
真楽寺三句この池の水は田畑へ鐘涼し
こがねむし塔に木陰の刻来たり
蛇となる後生も佳かり鐘涼し
仲寒蟬西のとんぼ東のとんぼ行き交へる
ハクサンフウロさつきの山が霧の中
ここはもう下界の一部さるすべり
峰雲の中に峰ある昏さかな
蝉もまた荒き山国樹々に風
濡れてゐぬところなどなし水遊び
空襲を知らぬ空より蝉の尿
青木百舌鳥指さしてゐる爪ほどの青蛙
草の道鮎の川へとはひりけり
口縁のちんまり凹み燕の子
花日傘に蹤いて添ひゆく黒日傘
錦鯉なりに急発進も出来
深爪の指でトマトの熟れ具合を
老鶯の応答を待つも少し待つ
北川美美夕立の中へどんどん入つていく
夕立の後しばらくを喫茶店
置石の確かに濡れて夕立後
川音の激しきところ鮎の里
小諸来てじんじん来たる暑さかな
湯殿にて「初恋」を読む汗をかく
飛び急ぐ浅間の夕を夏燕