2016年6月24日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第三 (とこうわらび・ななかまど・川嶋健佑)


とこうわらび(鯱の会)
花冷えや切り離されたドアの中
しゃっきりと目を覚ませない海苔かじる
わさび漬け刻む音する夜中かな
前掛けを締めて出陣こどもの日
居酒屋にはじけるラムネ皿運ぶ



ななかまど(鯱の会)
涼しげに鴨川の鴨水を掛け
馬刺喰う隣の人の花粉症
サシ飲みにお前は来んな稲花粉
梅田駅夕凪戦線異常あり



川嶋健佑(船団の会、鯱の会、つくえの部屋)
夏帽子神戸の海に浮いている
電線が絡みあう日の青葉風
ぶらんこに夜風が響く世相かな
向日葵に異邦人来てずっとジャズ

2016年6月17日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第二 (杉山久子・神谷波)




杉山久子
本番の前のためいき柚子の花
燦燦と牡丹の雫日を抱き
白鷲のうしろ白鷺うしろ白鷺



神谷波
日本国憲法前文山藤が似合ふ
山鳩の人恋しげに鳴く立夏
電話切り心残りや牡丹散る


2016年6月10日金曜日

平成二十八年花鳥篇 第一  (石童庵・夏木久・中村猛虎)



石童庵
梅寒し文革以後は違ふ国
軒端の梅内へ内へと薫りけり
たかんなや京帥に近き杣暮らし
たかんなや同窓会へいそいそと
わくらばの一葉を載せ臥牛石




夏木久
乳液を出し過ぎてをり花ふぶき
春夕もワインも君も傾けり
画面右へ逆説的な菜種梅雨
順調でますます歪暮の春
梔子の錆を落せり比喩として
モナリザの背景辿り何時か初夏
邂逅や若夏へストロー差すやうに




中村猛虎(なかむらたけとら)1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。
向日葵に見つめられていて童貞
花の下きっと私が埋まってる
昼顔や靴紐解けて死ぬしかないか
十五歳無防備すぎるラベンダー
菜の花の塊てんてんてんと海へ
メビウスの帯の如くに夏燕
木苺の粒で閉じたる生態系


2016年6月3日金曜日

平成二十八年春興帖 第十二 (小林苑を・筑紫磐井・北川美美)




小林苑を
肩に上着を陽炎の町に着く 
死んだ兵士に石鹸玉飛んでゐる
青空の見えてバケツに霞草



筑紫磐井
歳旦のある春興の本意かな
春分のしづかな君と僕の生活
アパートで晩春しつつ女ひとり



北川美美
わたくしにわたくし帰る花は葉に
春塵にバスは消えゆくラストシーン