2016年9月23日金曜日

平成二十八年 合併夏・秋興帖 第三 (石童庵・仙田洋子・小林かんな・神谷波)



石童庵
海霧が這ふ七つの丘の街リスボン
涼風の吹き来るアレンテージョより
涼しさやヴィーニョ・ヴェルデの泡仄と
聖家系樹へステンドグラス越し夏日
テンプル騎士団の紋章夏盛ん
巡礼来る灼けて雲母のこぼるる地
オリーブ稔るガリヤ戦記に名ある街
葡萄育つ渓深ければ橋高し
渓涼しサンデマン社の黒マント
シャツを干す世界遺産の街ポルト



仙田洋子
ペガサスの疾駆して夏来たりけり
焦がれ死すとき眼裏に螢の火
ゆきずりの螢袋にもぐりこむ
初恋のひかり噴水のひかりかな
浜にさすコロナの瓶や晩夏光
はんざきや色恋沙汰に遠くゐて
セシウムの乳出す牛を冷しけり
大花火空をなかなか眠らせず
初恋は銀河きらめくごとはつか
新涼や雲はシン・ゴジラのかたち



小林かんな
静物の籠の果実とありの実と
白粉をはたくどこかで鵙の声 
野分晴視力検査の和歌読んで 
十六夜を反りて山海塾の四肢 
眼帯の裏はカンナを消せずにいる



神谷波
月涼しすこしおどけてバイオリン
梅干すに絶好八月六日かな
仏壇の前で向き変へおにやんま
おにやんま出口わからずつまみださる
それぞれの帽子へつくつくぼふしかな
墓といふ墓に鬼灯くらくらす