北川美美
エスカルゴ山盛りにして銀の皿
おりがみの何処でもゆける赤い靴
弔いに来しサド・フーリエ・ロヨラかな
葡萄酒と牛肉赤きまさ子の忌
馬車はゆく銀河の中をカルナヴァル
北川美美
公園のベンチ置き去り秋の夕
臨終のくちびるひらくうつつかな
虫の音の黄泉平坂まで続く
仙田洋子
簡単な音が好きなり鉦叩
水の秋手を入れて水よろこばす
石ころのきれいに濡るる水の秋
曼珠沙華水ある方へ傾きぬ
曼珠沙華切りためけふの褥とす
さびしくて銀河の端に触れにゆく
海底の亀裂銀河の亀裂かな
曾根毅
隠沼や落葉まみれという愛も
衣被爪を切られているような
長き夜ピアノの蓋の化身かな
北川美美
透きとほる氷やはらか緑の夜
八月のながき汀(みぎわ)をひたあるく
飴色に眠るしかなし蝉の殻
山本敏倖
ポンチ絵
炎帝のポンチ絵とてもイ音便
聖戦やどくだみの香と細菌と
夕立に裏おもてある西銀座
あめんぼうついに立つことなかりけり
海月が来るまでバスは平方根
佐藤りえ
ミルクティーミルクプリンに混ぜて夏
茄子持つて地震速報見てゐたる
Voyager1 Voyager2 讃
1号を追つて2号も別銀河
うるはしき地球忘れてしまひけり
筑紫磐井
圏外に妻の秘中の秘の避暑行
倒錯の意識がくづれ明け易し
水だけで生きる覚悟の老人たち
網野月を
免許証に別人の顔道おしえ
ボルダリングすれば守宮の心かな
GよG来世はきっとカブトムシ
空色の海海色の空夏一つ
土用鰻火災報知器点いたまま
夏果てて掴む乳房に故郷を
板襖越しの人声麦こがし
池田澄子
藻の花や愛は水溶性ならん
台風一過骨付き肉がとろ火の上
階段で家人に会いぬ遠花火
宵まつり彼の世のものを混ぜて吊り
君が代という代ありけり夜這星
田中葉月
ぼうたんの花片の中へ身投げする
かくれんぼ見つけて欲しい蛇苺
深山の独り芝居をホトトギス
初夏の小さな銀貨のものがたり
虹生まるわが体内の自由席
近江文代
手招きの先の静かな夏の山
ハンカチを載せて秘密のひざがしら
遠雷や保育施設の鉄格子
ポンポンダリア既婚者に帰る家
指白く入って空蟬の背中
飯田冬眞
初鰹骨折の日の食卓に
金魚玉のぞけば赤の溢れ出す
涼やかな風を貯(たくは)へ人造湖
草いきれムーミン谷は封鎖中
青梅線あくび残して夏終はる
中村猛虎
空蝉の中で未熟児泣き続く
短夜や妊娠中のラブドール
鬼灯を鳴らす子宮のない女
屍に向日葵の種を撃ち込む
飛蝗跳ばずに泣く女を見ている
凹凸の多き裸身に稲光
油照り我が娘を誘拐してみるか
小沢麻結
鉾建や京の時間軸無限
星涼し時折幹を打つは何
宿下駄を親しく鳴らし洗ひ髪
水岩 瞳
外股の若きイエスよ青嵐
少年蹴り込む憧れの青き芝
母逝けりマリアの月にしづやかに
花も葉も鬩ぎ合ひして夕夏野
蠅払ひ払つて啜るチキンフォー
岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
照る水に青葦の脛渇きゐて
神輿過ぎ町の名のなき半被かな
舟と生き人を見送る夏の果
依光正樹(「クンツァイト」主宰)
子の腕を引く手が粗き日除かな
お抹茶をいただいてゐる跣かな
凛として埃もあらず立葵
ひと夏のうまが合ふ人合はぬ人
依光陽子(「クンツァイト」)
逸れてゆくその傍らに黒揚羽
打水の仕舞の水は枝に打ち
水母見しあとの両手でありにけり
大井恒行
万華鏡に満ちたる晩歌あけやすし
げんしろに咲くかならずの夏の花
皇(す)べる手の憂愁の夏ケセラセラ
早瀬恵子(「豈」同人)
夏少女海底を這うチューバの音
夢見るや蛇腹の四季の舞扇
祭屋台に北斎ブルーのフォルティシモ
林雅樹
新緑に延びよ狂気の遊歩道
老鶯や山の麓のラブホテル
ごきぶり食ひ太るひきこもりの息子
旱天や路地を曲がるはみな娼婦
夜店怖いエグザイルみたひな人ばかりで