2017年10月6日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第六(岬光世・依光正樹・依光陽子・大井恒行・早瀬恵子・林雅樹)



岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
照る水に青葦の脛渇きゐて
神輿過ぎ町の名のなき半被かな
舟と生き人を見送る夏の果


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
子の腕を引く手が粗き日除かな
お抹茶をいただいてゐる跣かな
凛として埃もあらず立葵
ひと夏のうまが合ふ人合はぬ人


依光陽子(「クンツァイト」)
逸れてゆくその傍らに黒揚羽
打水の仕舞の水は枝に打ち
水母見しあとの両手でありにけり


大井恒行
万華鏡に満ちたる晩歌あけやすし
げんしろに咲くかならずの夏の花
皇(す)べる手の憂愁の夏ケセラセラ


早瀬恵子(「豈」同人)
夏少女海底を這うチューバの音
夢見るや蛇腹の四季の舞扇
祭屋台に北斎ブルーのフォルティシモ


林雅樹
新緑に延びよ狂気の遊歩道
老鶯や山の麓のラブホテル
ごきぶり食ひ太るひきこもりの息子
旱天や路地を曲がるはみな娼婦
夜店怖いエグザイルみたひな人ばかりで