2017年11月24日金曜日

平成二十九年 秋興帖 第五(大井恒行・小林かんな・網野月を)



大井恒行
半立ちでいく夢さびし秋の蚊も
秋刀魚焼く平成すでに尽きんとし
千年のひかりを先に火の祭


小林かんな
詩となりぬきちきちバッタ着地して
花野めくかりそめの書肆寄せ合いて
自著を売る人人人人蟋蟀
気鬱症いいえ花野に長居した
月夜ならボタンが落ちているだろう


網野月を
コピー機の前に佇む秋思かな
コスモスの素顔装いの菊花展
正装の和歌俳句とは肉体恥
秋灯その他の中に子どもの名
行く秋やゴミ袋から竹の串
六本足のタコソーセージ十三夜
遠山の紫恋えば水明り

2017年11月17日金曜日

平成二十九年 秋興帖 第四(杉山久子・真矢ひろみ・木村オサム)



杉山久子
折鶴の千の軋みを十三夜
さよならの数だけひろふ木の実かな
行く秋の猫と分け合ふカレーパン


真矢ひろみ
食べるのが遅いだなんて 獺祭忌
楚々ときて編集後記紙魚留まる
蚯蚓鳴いてANA三便の遅れけり
末枯に錦もあるぞ筑前煮
手を挿せば爪の縦筋水の秋


木村オサム(玄鳥)
芒野の中心点に立たされる
一文字も入力しない夜長かな
かなかなや回送電車野に停まる
夜なべする父の書斎の無重力
葡萄一房顔を知らない友ばかり

2017年11月10日金曜日

平成二十九年 秋興帖 第三(松下カロ・坂間恒子・渡邉美保)



松下カロ
アパートの外階段を鳥渡る
胸あけて秋の荒海見せにけり
不在票ちらつくあたり烏瓜


坂間恒子
目の澄みし冬鹿指をさされいる
霧わけて日本武尊に会いに行く
おおかみと記念撮影霧のなか


渡邉美保
望の月白鳥橋を渡りけり
うろこ雲葉騒のなかにゐてひとり
丹波栗丹波の猪の太りやう

2017年11月3日金曜日

平成二十九年 秋興帖 第二(岸本尚毅・辻村麻乃・夏木久)



岸本尚毅
秋淋し石の蛙とゴムの蛇
歪めたる顔のやうなる茸かな
草の葉を押し上げてゐる茸かな
脚をもて首掻く鶴や草紅葉
くちばしに蜂をとらへぬ鶴の秋
木の実降り写真古びぬ写真館
鼻唄の女秋風に一寸変


辻村麻乃
重たげに動く秒針小鳥来る
縁石の赤きパンプス月の客
台風の目の駅舎へと駆け込みぬ
霧深き山に吸はれてあずさ号
うろこ雲亀のゆるりと漂泊す
眠つたり交つたりして秋の蝶
店裏のお化け南瓜の口真つ赤


夏木久
心室を叩き秋思を誘ふ夜
秋口や白朝顔のひとつ咲き
黄落やビートルズなど耳障り
ロボットを志すとふ案山子かな
花束はガードレールを蟲時雨
地下室を開けて新月開放す
為体な風に端唄を野紺菊