2020年4月17日金曜日

令和二年 春興帖 第五(内村恭子・早瀬恵子・渕上信子・真矢ひろみ・仲寒蟬)



内村恭子
踏青や道を聞かれてばかりゐる
邸宅の裏庭に入る鳥交る
春を待つ次の間飾る銀食器
生前のままの書斎や冴返る
春暖炉泰西名画一面に


早瀬恵子
血圧と脈拍99 66 77ゾロメ春立つ日
コロナウイルスVS東京大空襲忌
パンデミックさくらの女神号泣す
仏壇にお迎え祈る母の春
デュオや吹かれゆく蝶々と和毛


渕上信子
蛇穴を出てコロナつてなに
三月や無人の滑り台
ふらここの人たちまち寝落ち
春のマスクを洗つては干し
囀のつひにパンデミツク


真矢ひろみ
じゅん菜のぬめりぷちぷち甘露かな
禍々しきは菜の花の昏きより
煌めきを十把絡げぬ春の川
春一や暖色電球廻し点く
春愁ひゴルゴンゾーラを二三片


仲寒蟬
キャスターのピアス揺れをり今朝の春
流氷に乗つてどこぞの神が来る
ヒヤシンス顔洗ふ手に水鏡
徐々に声高紅梅派白梅派
初蝶の飛ぶといふよりただよひ来
先生のやけに小さく卒業式
なまじ音立ててさびしき風車