網野月を
夏の果て山々己の場に聳ゆ
秋七日願いは無くも光あり
三方に揃いの茶碗天の川
三日月を目指して急ぐ親からす
月光や鳥獣戯画を写し取る
後の月猿は悲しい顔をする
秋の日や猫とグリコのポーズして
堀本 吟
銀漢や黒覆面のお友達
朝顔のずぶぬれとなり午後の配信
ぼたぼたとマスクは唄う曼珠沙華
ばあちゃんの祥月命日曼珠沙華
竹岡一郎
銀河測るに良き広場だが爆破
月浴びて笄蛭再生の阿鼻
万博も隣る団地も蔦に融く
土蜘蛛の憑代として雁を聴く
待宵は三味かすかなる廃旅館
銀漢をよぎる翼を権現と
梳く髪の蛇となるまで月の蝕
木村オサム
百年は誤差よと秋の鳩時計
砂時計割れて砂漠の出る秋思
鉦叩柱時計を裏返す
時間から遅れ団栗転がりぬ
一瞬と永遠同じ草の花
【夏興帖追加】
堀本 吟
斑猫やルビコンわたる心こそ
供物すくなし磨崖仏に蚊の痛し
おもいだす父の殯の百日紅
松下カロ
足元のどんぐりを見て何も言はず
哲学者のやうな山羊ゐる秋の山
傷を持つ万年筆もどんぐりも
仙田洋子
盆の路吹かれて蝶のむくろかな
水たまり覗き込みゐる休暇明
両脇に標本かかへ休暇明
音もなく死にゆく星や風の盆
手鏡へ金木犀の金こぼれ
しろがねの大海原の月見舟
我が身また獣臭しや寝待月
神谷 波
栗もらふこまつたこまつた多過ぎる
どこからかどすこいどすこい松手入
鯛鮃蛸うきうきと今日の月
クレーターのあばたもえくぼ今宵の月
鍔を鰐と読みちがへ釣瓶落とし
ふけとしこ
棗の実かつて花街の開業医
約束のひとつを果たし柿を剥く
深秋や雨の初めを羊歯が受け
杉山久子
飛蝗の子跳んで蔓草ゆれました
マスクの内に浅き呼吸や雁のころ
台風のうしろ姿へ献杯す
曾根 毅
遊行の亀の速さも秋高し
秋の湖しずもり根の国まで近し
穂芒やここから湖の匂いして
山本敏倖
牧谿の幽谷を出る秋の蝶
眠られず十三夜まで歩きます
虫の闇陸は平均寿命なり
感情の先の先まで赤のまま
鬼胡桃アンセルムスの手から落つ
渕上信子
九月二八日 秋晴や赤い小さな傘干して
九月二九日 庭へ出ん秋蚊一匹ぐらゐなら
九月三十日 掃除当番秋草を少し刈り
十月 一日 今日の月マスク外して深呼吸
十月 二日 雲動き子夜の満月煌々と
十月 三日 長き夜のもういちど近現代史
大井恒行
ヒトはあらわに顕わに生きる秋コロナ
弱いオトコがまず消えるウイズコロナ
秋青空ウイズコロナウイズ核
辻村麻乃
立秋や家具にハンマー振り下ろす
ティンパニの音加速して秋驟雨
影と云ふ影踏まれたり牛膝
おぢさんの面つけてゐる竈馬
疵のある男に並び芋煮会
大夕焼死んでしまへば話せない
小屋裏の真夜中の月笑ひたり
関根誠子
秋風の傾斜に合わせ蝶の翅
オガサワラシジミ忌と書き破り秋
傷秋のまず三食を正さむか
玉子かけ御飯秋茄子きうと噛み
虫しぐれ手本なき世の星仰ぐ
池田澄子
入口と書いてはあって雨の萩
底紅の紅の嘆きをほっておく
羊羹の陰気な色を十三夜
秋深く物置のあの箱は何
いなつるびしんぱいされていて嬉し