2021年6月18日金曜日

令和三年 春興帖 第八(林雅樹・渡邉美保・浅沼 璞・水岩 瞳・下坂速穂・岬光世)



林雅樹(澤)
形式的辞職願や夕桜
チューリップ濃し退職の花束に
あたたかや傘にさえぎらるゝ視界


渡邉美保
梅林を通り過ぎたる鈴の音
霾や厠に古き世界地図
街灯に造花めきたる花水木


浅沼 璞
梅林の折れ線つつがなくグラフ
日を舌に感じてをりぬ石鹸玉
さきに敷く春の布団をひろびろと
みんなしてたらりとすごす花きぶし
花散るを通りがかりの空にみる
よろこびの急坂にして百千鳥
ほの暗き藤が廊下をたれてゐた


水岩 瞳
いつどこで誰が何して建国日
此処までと堪へきれずに亀の鳴く
四月馬鹿続く此の国何がホント
石投げて壊す片片春の水
雑草も芥ものんで花躑躅


下坂速穂
帰りたる葉ずれの中にゐし鳥も
人見知りする掌に田螺かな
空き部屋の多きアパート柳の芽
Bar閉ぢてその奥に棲む干鱈かな


岬光世
野遊びやうとまれてゐて駈くる風
根菜のゑくぼを洗ふ春の水
本を読む背や春潮の太平洋