依光正樹花冷の雄蕊をひとつ拾ひたる
春禽のものも言はずに身ほとりに
春寒のふざけあひたる仲や何
花筏もうひとひらを乗せてみたし
依光陽子聴きゐるは滂沱の無音春の鵙
舟揺れて君は揺れずよ鳥帰る
イヤホンの落ちてゐる椅子春の雪
蝶々を捕へし網をかるくねぢる
井口時男うらゝかや老漫才師鳩まみれ
何事も「させていたゞく」とか土筆
春ぢやものらしやめん金魚赤いベゞ
祝婚や曳舟からの花便り
金雀枝やいのち傷みて母逝きぬ
母逝きてすみれかたかごれんげ草
春の野に
佐藤りえ雲雀野にくだものの匂いがするわ
切り通しいよいよ無人余花曇
ちり籠に桜はなびらかたまりて
筑紫磐井マスクして沈黙の春ばかり
井戸端で茶壷に嵌る老いの春
鈴木明氏
春闌けて白にて仕舞ふ全句集