2021年10月1日金曜日

令和三年 夏興帖 第三(加藤知子・仲寒蟬・網野月を・岸本尚毅・坂間恒子)



加藤知子
新緑を絞めた手明日は浦安
はつ夏の天使の羽はみゅうと鳴く
江戸川水門無痛分娩痛のあり
前面に女陰あらわが五月晴
青葡萄シーラ・ナ・ギグの宿りかな


仲寒蟬
空中に鳥静止させ青嵐
門柱に薔薇を這はせて魔女の家
葛切を加筆されたる壁のメニュー
裏口の水桶に酒登山小屋
中洲に鵜鳴くほどに月昇りゆく
背泳ぎの雲呼び寄せてをりにけり
両足を海へ突つ込み虹くつきり


網野月を
性別は別せぬものに星祀る
天皇が頭を下げて秋めきぬ
平和とは油絵の餅か玉葱
ひしゃげた奴が元気な馬に瓜と茄子
手踊の外輪をそつと抜けにけり
寒蟬や外灯一つ幽霊に
テレビの中のつづくの文字や法師蟬


岸本尚毅
紫陽花が頭の如く暗がりに
来ては去る人に雨だれ虎が雨
黒雲のしづかに蟬のなきつづけ
墓原や空蟬草に墓石に
梵妻の粉もてつくるソーダ水
明易や見えて色なき家具調度
避暑の町淋しやアーティチョーク枯れ


坂間恒子
虹ふたえ額田王袖をふる
青芒風の言葉を研いでいる
薔薇(そうび)拒食症の眼とも
仙人掌を捨てし日のことはくらやみ
黒揚羽柩の蓋をあけにくる