家登みろく
愛称で呼び合ふ故老秋夕焼
秋澄むや猫ことごとく眠る昼
霧いまだ遠しと見るに霧の中
鱗雲遅々時の気の人いきれ
鬼灯や歌詞おぼろげに子守唄
林雅樹(澤)
秋の野に現れ脳味噌のない男
不知火を見る脳味噌のない男
竃馬夜の便意の切なしよ
水岩 瞳
西鶴忌浮き世憂き世のなかにゐて
長き首の上に置きたる秋の顔
草は実に人間何に変はりゆく
貼り紙の閉店します零れ萩
秋の夜のメールほんならまた明日
竹岡一郎
不可視の空襲盆の陶酔電磁波の
円滑に進む屠殺も豊の秋
児を攫ひ匿ふ化鳥へと鳴子
金風にくすしら己が口を縫ふ
偉いらしくリモート画面では雁瘡
看護婦嗚咽冷えた薬瓶取り落とし
救急車タイヤ摩耗の長夜奏
望月士郎
鳥渡る骨のかたちをして綿棒
蕎麦の花われもだれかの遠い景
てのひらは生まれた町の地図とんぼ
すいみつとう心的外傷的に剥く
夕花野ときおり白い耳咲かせ
前北かおる(夏潮)
貝塚に人も葬り鉦叩
秋蝶も雲も真白にあらざれど
団栗を一万年も煮てゐしか
のどか
だまし絵のなかに息ある枯蟷螂
ひとけりに超ゆる子午線飛蝗かな
コロナ禍ののこつたのこつた泣き相撲
病魔調伏四股高々と宮相撲
死にしふり演じ冬蝿逃げにけり
仲寒蟬
水澄むやかつて都を映せしに
道なくば作るまでなり葛の花
どこまでが庭どこからが野分の野
幾重にも塔にひぐらしからまりぬ
秋の川跨げるところまで歩く
月に雨書かれぬ前の継色紙
晩年の庭露草のあればよし
井口時男
ひぐらしの鳴かぬ国なり自爆テロ
胃袋へ黒蔦が這ふ今朝の秋
身を宙に吊つて南瓜の蔓太し
マスクして金木犀の花を過ぎ
匍匐して花野に斃れ帰らざる
鬼柚子がごつごつとあるでんとある
肩先に月尖らせて少年は
小野裕三
のど自慢すぐに退場野分晴れ
しゃあしゃあと案山子となっていたりけり
台風の色蹴散らして進みけり
逆さまに生き物吊るす秋彼岸
啄木鳥やきれいさっぱり失恋す
関根誠子
鉄を組む男等ひかる野分晴
朽葉まじりに蟬の死の簡単なこと
秋酒場毒飲むやうに微笑んで
駅裏は落書の通ねこじゃらし
秋の空宇宙の色の混ざりをり
田中葉月
つくづくひとりつくづく水草紅葉かな
六道の辻に誘ふ蛍草
秋蝶や疵に届かぬ舌なんて
月光や一角獣をさがしゆく
嬰児と鏡のあはひレモン置く