2022年1月21日金曜日

令和三年 秋興帖 第九(望月士郎・前北かおる・のどか・仲寒蟬)



望月士郎
鳥渡る骨のかたちをして綿棒
蕎麦の花われもだれかの遠い景
てのひらは生まれた町の地図とんぼ
すいみつとう心的外傷的に剥く
夕花野ときおり白い耳咲かせ


前北かおる(夏潮)
貝塚に人も葬り鉦叩
秋蝶も雲も真白にあらざれど
団栗を一万年も煮てゐしか


のどか
だまし絵のなかに息ある枯蟷螂
ひとけりに超ゆる子午線飛蝗かな
コロナ禍ののこつたのこつた泣き相撲
病魔調伏四股高々と宮相撲
死にしふり演じ冬蝿逃げにけり


仲寒蟬
水澄むやかつて都を映せしに
道なくば作るまでなり葛の花
どこまでが庭どこからが野分の野
幾重にも塔にひぐらしからまりぬ
秋の川跨げるところまで歩く
月に雨書かれぬ前の継色紙
晩年の庭露草のあればよし