2022年1月28日金曜日

令和三年 秋興帖 第十(家登みろく・林雅樹・水岩 瞳・竹岡一郎)



家登みろく
愛称で呼び合ふ故老秋夕焼
秋澄むや猫ことごとく眠る昼
霧いまだ遠しと見るに霧の中
鱗雲遅々時の気の人いきれ
鬼灯や歌詞おぼろげに子守唄


林雅樹(澤)
秋の野に現れ脳味噌のない男
不知火を見る脳味噌のない男
竃馬夜の便意の切なしよ


水岩 瞳
西鶴忌浮き世憂き世のなかにゐて
長き首の上に置きたる秋の顔
草は実に人間何に変はりゆく
貼り紙の閉店します零れ萩
秋の夜のメールほんならまた明日


竹岡一郎
不可視の空襲盆の陶酔電磁波の
円滑に進む屠殺も豊の秋
児を攫ひ匿ふ化鳥へと鳴子
金風にくすしら己が口を縫ふ
偉いらしくリモート画面では雁瘡
看護婦嗚咽冷えた薬瓶取り落とし
救急車タイヤ摩耗の長夜奏