2022年3月25日金曜日

令和三年 冬興帖第七/令和四年 歳旦帖第七(小野裕三・渡邉美保・曾根 毅・鷲津誠次・浅沼 璞・眞矢ひろみ・望月士郎・小沢麻結・前北かおる)

【冬興帖】

小野裕三
新雪の方程式を解きにけり
続篇のようにヤクルト置いて冬
水仙をまんなかとする都市計画
抽斗に隠されていく百合鴎
冬菜みな手傷を負っていたりけり


渡邉美保
冬麗の海底にある山と谷
白き鳥集まる河口寒に入る
冬薔薇一輪しんと日を待てり


曾根 毅
昼更けて寒の椿を潜りけり
読む力まだ衰えず冬の庭
ゴールドジムから寒い東京湾望む


鷲津誠次
霙打つ小駅に朽ちし伝言板
ひとり言好きな家系やかいつぶり
冬夕焼転校生はまた転校


浅沼 璞
凩が廃車を鳴らす渚かな
名盤のジャケットあまた北塞ぐ
空腹のしやつくり凩だよ俺は
赤々と目か降る雪に紛れをる
血の跡をくねくねさせてしまふ狩
寒紅やてかるきしめんの表面
甍へと雪とぎれなく風にのり


眞矢ひろみ
来し方は行く末のさき帰り花
極寒の魚骨ぶつ切る疱瘡痕
人参の色淡くなる都会かな
冬の空はぐれる鷗見てゐたり
枯蓮の水出しきって水の中


【歳旦帖】

望月士郎
てのひらでさわるあしうら去年今年
初句会シャーペンの中小さなバネ
元日やシンメトリーに鼻をかむ


小沢麻結
かまくらの天は雪染むベニヤ板
千歳を手から手巡り歌かるた
初仕事指すらすらとパスワード


前北かおる(夏潮)
綱曳の綱のとぐろに餅を撒き
綱曳の綱のべられて雪の町
綱曳の綱に跳びのる丸坊主


小野裕三
あとがきのごとく始める新日記
ヨーヨーの跳ね上がりたる淑気かな

2022年3月18日金曜日

令和三年 冬興帖第六/令和四年 歳旦帖第六(男波弘志・望月士郎・のどか・小沢麻結・前北かおる・浜脇不如帰・木村オサム・鷲津誠次)

【冬興帖】

男波弘志
色が欲しくて影踏みをしています
寒月に眉間をひらく獣たち
冬の芽よ鬼になりたる大人(オニ)たちの


望月士郎
訃報というキリトリ線や冬鷗
痛くない死に方マフラーの巻き方
私の棲むわたしのからだ雪明り
予後すこし兎のしっぽ狐のしっぽ
みずうみの深層心理ささめ雪


のどか
小春日や飼ひ馴らさるる天邪鬼
大枯野夢の駿馬を放ちけり
阿智村やシリウス行のロープウエイ
真つ白なスニーカーにある初昔
油彩画の農夫のやうに寒肥うつ


小沢麻結
河豚鍋の雑炊までは記憶あり
梅肉を添え寄鍋の締め饂飩
鍋にして白菜豚肉花の如


前北かおる(夏潮)
ばつさりと剪りたる薔薇に寒ごやし
いかづちの如くに枯れし薔薇かな
冬薔薇日比谷公会堂とざす


《歳旦帖》

浜脇不如帰
きりすとやお節にあって過分ナシ
大皿にならぶてっさはみえる銃
ヨク咲うコ程すぐ泣くお年玉
年末始面目埋まるシャトレーゼ
風花のように巧くは語れざり


木村オサム
輪の中のわたくし越しの御慶かな
輪になって嘘の初夢語り合ふ
断崖へ輪舞で向かふ嫁が君
知恵の輪を放れば解ける淑気かな
ぽっぺんを吹きメビウスの輪を進む


鷲津誠次
ふと浮かぶ一句小さく初日記
村いちばんよく泣く双子福寿草
初湯して推敲よもや捗らず
人日やタイムカードの打ち忘れ


男波弘志
漸ように白い日向となりにけり
餅を切る息のつづきにある廊下
廓ごと闇になりてや嫁が君

2022年3月11日金曜日

令和三年 冬興帖第五/令和四年 歳旦帖第五(網野月を・田中葉月・なつはづき・浜脇不如帰・木村オサム・山本敏倖)

【冬興帖】

網野月を
寄り竹の中の緑や冬はじめ
長濤忌黒のドレスに青差しを
オーボエの音に隊を組み白鳥来
姫熊手鯛は金魚に飾り櫛
出来映えは上の下ほどのシュトーレン
大鵬もゴヂラもクリスマスツリー
泥つきの葱を読売新聞紙


田中葉月
冬夕焼ゆつくり拒むレクイエム
裸木や影なきものを走らせて
野水仙あなたの横顔すてきです
まあだだよ枯野に星のかくれをり


なつはづき
冬の薔薇反旗しまったままでいる
寒波来る影を持たない稚魚の群れ
この鍵が短刀になる十二月
猫脚の椅子ぐらぐらと三島の忌
おでん酒回想いつも殴り書き
ポインセチアぽんとコルクの抜ける音
スカイツリー見上げ白菜重くなる
寒雷やおんなは猫を捨てにゆく


浜脇不如帰
十字架やえんがわ迄に味広き
その西は起立しかなし寒鮃
垂涎を来すヤキトリウォッチング
悴んで未だ固かるアルフォート
鱶や虫歯には挫けず波に泣く


木村オサム
消えさうな顔に囲まれ大くさめ
道化師の中は枯木のかたちです
冬の虹見えて埴輪の変声期
葱抜いてみても境涯変わらざる
相席の人に早梅教えられ


【歳旦帖】

山本敏倖
元旦の硝子のような空気かな
鏡花まで明治の路地を破魔矢行く
手のひらの生命線へ射す初日
若水や過去を開いてぬり絵する
鏡餅は時限爆弾でありけり


網野月を
斛斗雲孫と語らふ三が日
駅名に無き新浦和福笑ひ
浦和にも夜霧へ礼を言ふ奴が
寒卵コンツアーボトル握りしめ
美美の忌やひもかわ少しやわらかめ
心臓のあたりの痛み浮寝鳥
水騒にだんだん慣れて日向ぼこ


田中葉月
去年今年エッシャーの階段にゐて
掛け軸の虎の目うごく初明かり
栴檀の大樹言祝ぐ福寿草
一月の漁火ゆかしシュガーロード


なつはづき
こんなにも我が名うつくし年賀状
はつはるや猫喜ばす羽織紐
電話出る初鏡から飛び出して
ホームからはみ出し止まる宝船
独楽の紐借りて男を縛りけり

2022年3月4日金曜日

令和三年 冬興帖第四/令和四年 歳旦帖第四(花尻万博・岸本尚毅・内村恭子・山本敏倖・ふけとしこ)

【冬興帖】

花尻万博
炭飛べり教科書に季語古びつつ
水ありて舟となる木々枯葉寄せ
海鳴れり子ども崩せる煮凝りに
木の国の鯨に故山ありにけり
白髪に隠るる耳に届く雪か
狼の大きな母屋欲しがりぬ


岸本尚毅
風花やぽつんぽつんと雲のあり
窓よぎる風花の皆同じ向き
寒林を来て顔ほどのメロンパン
晴着の子毛皮だらりとして遅刻
この庭に水仙のある月日かな
マフラーの二人並びて猫撫づる
雪達磨よろめくさまにとけ細り


内村恭子
寒暁や沼にあまたの鳥騒ぐ
雪吸うてをりしが積もり初むる沼
不確かに雪を探れど失せしもの
石壁は果てなく続く冬館
寒の月蛇口より水迸る


山本敏倖
福耳が一つ付いてる冬座敷
間口二間の障子を染める昭和かな
人間につるんと入る雪の精
紅葉散るもう引き算はいらない
シナリオの歩幅は雪の円周率


【歳旦帖】

ふけとしこ
太箸や袖口といふ邪魔なもの
漁休み焚火に竹の爆ぜる音
左義長の果てて大きく水溜り


岸本尚毅
日々に猫屯す家や松飾
嫁が君病める茅舎にささやける
初富士のざらざらとして光りけり
繭玉のうつろに映る硝子かな
福笑そのまま誰もゐない部屋
松過や昼餉に鯖の一夜干
置いてあるやうに老人初大師


内村恭子
初松籟白衣古武道者の集ふ
元朝や渓谷によき風の音
まづ松の枝ぶりを褒め年賀客
菓子切れば富士現るる大旦
再開発地区ビル街の御慶かな