2022年3月4日金曜日

令和三年 冬興帖第四/令和四年 歳旦帖第四(花尻万博・岸本尚毅・内村恭子・山本敏倖・ふけとしこ)

【冬興帖】

花尻万博
炭飛べり教科書に季語古びつつ
水ありて舟となる木々枯葉寄せ
海鳴れり子ども崩せる煮凝りに
木の国の鯨に故山ありにけり
白髪に隠るる耳に届く雪か
狼の大きな母屋欲しがりぬ


岸本尚毅
風花やぽつんぽつんと雲のあり
窓よぎる風花の皆同じ向き
寒林を来て顔ほどのメロンパン
晴着の子毛皮だらりとして遅刻
この庭に水仙のある月日かな
マフラーの二人並びて猫撫づる
雪達磨よろめくさまにとけ細り


内村恭子
寒暁や沼にあまたの鳥騒ぐ
雪吸うてをりしが積もり初むる沼
不確かに雪を探れど失せしもの
石壁は果てなく続く冬館
寒の月蛇口より水迸る


山本敏倖
福耳が一つ付いてる冬座敷
間口二間の障子を染める昭和かな
人間につるんと入る雪の精
紅葉散るもう引き算はいらない
シナリオの歩幅は雪の円周率


【歳旦帖】

ふけとしこ
太箸や袖口といふ邪魔なもの
漁休み焚火に竹の爆ぜる音
左義長の果てて大きく水溜り


岸本尚毅
日々に猫屯す家や松飾
嫁が君病める茅舎にささやける
初富士のざらざらとして光りけり
繭玉のうつろに映る硝子かな
福笑そのまま誰もゐない部屋
松過や昼餉に鯖の一夜干
置いてあるやうに老人初大師


内村恭子
初松籟白衣古武道者の集ふ
元朝や渓谷によき風の音
まづ松の枝ぶりを褒め年賀客
菓子切れば富士現るる大旦
再開発地区ビル街の御慶かな