2023年3月10日金曜日

令和四年 秋興帖 第八(水岩瞳・堀本吟・渕上信子・下坂速穂・岬光世)



水岩瞳
月は見し石舞台でありしこと
何億と祈る人ゐる良夜かな
薄紅葉ひとりぽつちといふ素敵
不条理が増えて色濃しピラカンサ
寂しさが銀化してゐる芒原


堀本吟
秋灯し読みたい本が山積みで
一隅に雲かかりおる秋の空
いのこづち畳のへりは猫の道


渕上信子
秋の蝶はげしく縺れあふ刹那
料理ひとりで秋晴の日曜日
思ひ出はみな輝くよ秋夕焼
文化の日隣の庭も少し掃き
秋晴や三部合唱マスクして
赤蜻蛉いつもの道で少し迷ひ
深呼吸秋のをはりの晴々と


下坂速穂
竜胆を供へるころの空が好き
秋天や地図を片手に来て迷ふ
踏切の向うの秋を見つめたる
猫に似し何かがよぎる夜寒かな


岬光世
花の名を知つてゐるなり鉦叩
秋桜ふたり姉妹の写真かな
晩秋の日差しへ向きをかふる山