水岩瞳月は見し石舞台でありしこと
何億と祈る人ゐる良夜かな
薄紅葉ひとりぽつちといふ素敵
不条理が増えて色濃しピラカンサ
寂しさが銀化してゐる芒原
堀本吟秋灯し読みたい本が山積みで
一隅に雲かかりおる秋の空
いのこづち畳のへりは猫の道
渕上信子秋の蝶はげしく縺れあふ刹那
料理ひとりで秋晴の日曜日
思ひ出はみな輝くよ秋夕焼
文化の日隣の庭も少し掃き
秋晴や三部合唱マスクして
赤蜻蛉いつもの道で少し迷ひ
深呼吸秋のをはりの晴々と
下坂速穂竜胆を供へるころの空が好き
秋天や地図を片手に来て迷ふ
踏切の向うの秋を見つめたる
猫に似し何かがよぎる夜寒かな
岬光世花の名を知つてゐるなり鉦叩
秋桜ふたり姉妹の写真かな
晩秋の日差しへ向きをかふる山