なつはづき底紅やベッドに吐息まだ残る
木の実落つ消印有効のことば
竜胆や記憶の中に傘開く
仮縫いの気持ちのままで秋の蛇
菊人形実物大の愁いかな
藤の実や昨日の母が音になる
鯖缶を音なく開けて秋惜しむ
中村猛虎(なかむらたけとら)ああ見えて水掻き続く鴨の脚
掌の中の神在月の浜の砂
失いし乳房の重さ黒葡萄
ハメマラの法則膳に菊膾
耶馬溪の色を吸い込む秋の川
秋彼岸あなたの胸に引っ越したい
【冬興帖】
仙田洋子理不尽な死ばかりありぬ冬灯
狐火の向ふに男立つてをり
掘り起こす冬眠中の蛇らの眼
雪女郎そんなについて来られても
雪嶺や愚衆の思ひ寄せつけず
仙人の如し雨中の冬の鷺
寒晴や濁世をぬけて俳諧師
仲寒蟬枯野へとつぎつぎ兵器送らるる
白鳥に訊くかの国の戦況を
「巫女さん募集」酉の市まで十日
虎の目を隠して襖半開き
七人の侍に似ておでん種
誰も見ず聖樹の裏のゲルニカを
鯨旋回しづみゆく北斗星
杉山久子兎抱く鳴かぬからだをぎゆつと抱く
由緒なき寺の日向の寒牡丹
仔犬らしファー付きコート着て散歩